子猫の正体①

「ついたよ。ここが私に食べ物をくれる人間の家。子猫のころは育ててもらったけど」


世話してくれる人間の家の前に着くと、ノアは言った。 外はすっかり暗くなっていた。


猫ドアをくぐって家の中に入り、振りかえるとリアムがあとに続いて入ってきたところだった。彼の背後で猫ドアがパタンと小さな音を立ててしまった。


入ってくると、リアムは先ほどのすました態度から一転して、興味津々で家の中をながめはじめた。


ノアは玄関先に用意された茶色い粒状の食べ物が入った皿の前に立った。


「リアム?お腹すいてる?これ食べる?」

 

 「けっこうです。今、急がしいんで」


 スリッパを物色していたリアムは顔を上げずに言った。


 つまり、お腹すいてないってことだよね......。

ノアはせわしなく家の中を歩きまわるリアムを横目に、腹ごしらえをすることにした。

リアムはといえばノアが食べ終ってもまだ、部屋の中を物色している。


「そんなにめずらしい?」


 ノアはあくびをして寝床まで歩いていって丸くなった。 人間の家の中を見るだけでいいって変わた子だなぁ。とリアムをながめながら思う。 やがてノアはそのまま眠ってしまった。


※まぶたの向こうの世界が明るい。もう朝か。ノアは目をパチッと開けた。そういえばリアムは......あたりを見回してもあの茶トラの子猫の姿はなかった。


夜の間に出ていっちゃったのか。変わった子だったし、ほとんど彼のことを何も知らなかったが、なぜか寂しかった。

よく考えれば、リアムは死んだ弟によく似ていた......。

猫ドアをくぐって、私は家の外に出た。あの風変わりな子猫はどこかに行ってしまったことだし、今日は何をしてすごそうか。


ノアは家の門のところまで歩いて行き、早朝の澄んだ吸い込まれるような青の天を仰いだ。

そこに突然、青空を背景に子猫の顔が現われた。

私はぎょっとしてとびすさった。


「いつ気づくのかなーと思って見てました」


 リアムが門の上からぽんと飛び降り、ノアの正面に立った。

 

 「てっきり、夜のうちにどこかに行っちゃたかと思ってた」


とノア。


 「行っちゃっても良かったんですけどね。でも、あなたに聞きそびれていたことがあったんです」


とリアムか言った。


「聞きそびれたことって?」


「この世界に魔法は存在しませんよね?」

 

 「 .......魔法って......?」


「やはりッ。魔法とは呪文を唱えて、普通では起こせないことを可能にすることです」

 

 「要するに、不思議な出来事が起こるってこと?」


 「まぁ好きなように解釈してもらってけっこうですよ」


「魔法ねえ」


ノアは身の回りの不思議な出来事がなかったか考えを巡らせ、はっと思いあたるものを思い出した。


「あるよ! 勝手に食べ物がでてくるものが。見てみる?」


 「あー......。はい、お願いします」


リアムは一瞬考えこんだのち、言った。


ノアはもう一度人間の家に入り、<勝手に食べ物が でてくる物体>の前にリアムを連れていった。

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