絶体絶命?!②
よく見もせず曲がるなんて、私のバカ!あんな高い塀、犬に追いつかれる前に登れないよ...........。
走りすぎては胃が痛い。行き止まりまでは、まだ距離があった。でも、それは生きている時間があと少し長くなるだけだ。
もちろん、路地の突き当りまでに犬につかまらなければだけれど。そのとき、少し先の道の上に子猫が飛び出してきた。
「こっち」
子猫はノアに向かって尻尾をさっと一振りし、傍の家と家の隙間に入っていった。私も子猫を信じて、その子の後に続いたが、入り込んだのは両脇が石の塀で、それこそ逃げ込む隙間もない、けれど、犬は通れる幅の道だった。
「無理だよ。追いつかれる」
犬よりも先に絶望に追いつかれて足を止めそうになりながら、ノアは前を行く子猫に言った。
「大丈夫です。こっちにきてください」
子猫は石の塀の下の部分に空いた小さな穴へ滑り込むように入っていった。
子猫の目線の高さではないと、気づけないようなところに空いた穴だ。
ノアは藁にもすがる思いで、その穴に頭から勢いよく突っ込んですり抜けた。
通り抜けた瞬間、穴の前で犬の牙が空を噛んだ。
ノアはほっとして、足から力が抜けたまま、塀の向こうを行ったり来たりする犬の茶色い足をぼんやり見つめていたが、不意に助けてくれた子猫のことを思い出し、背後に座っていた子猫に向き直った。
「助けてくれてありがとう」
子猫はすました様子で前足に尻尾を変えて座ったまま何も言わなかった。
「名前は?」
私は聞いた。
「リアムです。お見知りおきを」
ノアたちが逃げこんだこの場所は、民家の裏手だった。 石の塀の上から差し込む夕日がまぶしい。どこからかただよってくる人間の食べ物の匂いをせた風が私の鼻をくすぐっていった。
いつのまにか、穴の前をうろうろしていた犬たちも締めてどこかへ行ってしまっていた。
「そろそろ帰らないと、あなたはどこに住んでるの?助けてくれたお礼にっていったら何なんだけど、とにかく、送っていくよ。 お母さんも心配しているはずだし」
ノアはリアムが野良猫だと前程して言った、彼はよごれていたし、飼い猫ではないと思ったのだ。
「別に住んでるところは決まってないです」
「じゃあ、お母さんはどこ」
「いませんね」
「えっ?」
ノアはリアムをしげしげとながめた。まだ生まれてから満月が二度ほどしか訪れていないくらいの大きさだ。普通なら母猫とまたいっしょにいるような年齢なのに。
「私に何かできることはない?」
「何をですか」
「お礼に」
リアムは考えこむように下を向いた。
「あなたは飼い猫ですよね。」
下を向いたまま聞く。
「半野良猫って感じかな、食べ物は人間にもらってる」
「その人間の家の中って入れますか」
「入れるけど」
「だったらそこにつれていってください」
「......分かった」
少し予想外だったけれど、私はリアムを連れて石の塀にあいた穴を通りぬけた。念のため、あたりを警戒してしにら動かなかったが、犬たちが現われる気配はなかった。
太陽の姿はすでに空にはなく、代わりに人工の光が人間の作ったアスファルトの道を照らしていた。
「塀がたくさんありますね。」
「うん」
「塀に飛び乗ったら良かったんですよ。犬から逃げているとき。犬は高いところにのぼれません」
「それがね」
ノアは足元を歩く子猫を見下ろして苦笑いをうかべた。
「私、高いところが苦手で、のぼれないんだよね」
「ふうん。てっきりバカなのかと思ってました。高所恐怖症の猫っているんですね」
そう、猫なのに高所恐怖性。他言するのは少しはずかしいし、コンプレックスでもあるけれど、高いところはどうしても苦手だ。
でもいつまで経ってもなおりそうにないので諦めてしまっている。
ノアは考えないことにして、尻尾を立てて前を行く子猫を追った。今日もなんとかなったんだし。
「高所恐怖性でもそれほど困ることはないし」
と声に出して言うとリアムが振りかえった。
「 今日は困らなかったんですか」
その言葉には流石にこたえられず、私は耳をぺたりと倒した 。
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