第57話

「今日は本当にありがとうございました」


夜十時、翼は流石に帰らなければということで玄関先で帰りの挨拶を済まそうとしている。

お父さんも翼を車で送るために一緒に行くようだ。


「泊まっていけば良いのに・・・」


「毎年ケーキとかは食べないんだけど、お祝いの言葉くらいは言わせろってさっき母さんから連絡も来たからな。それにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないし」


「そっか、それなら仕方ないね。改めてだけど誕生日おめでとう!またお店行くね!」


「今日は本当にありがとうな、今日のことは絶対に忘れない一日にになったよ。瞳さんと仁さんも今日はありがとうございました。料理もケーキもとても美味しかったです!」


「こちらこそ今日は昼から娘に付き合っていただきありがとうございました。また・・・あ、そうだ!」


言葉の途中で何か思い出したのか、お母さんはリビングに何かを探しに行く。

少し経ち、戻ってきたお母さんの手には一枚の紙が握られていた。


「よければこちらをどうぞ」


「これは?」


「今度大きな花火大会があるのはご存知ですよね?その花火大会の関係者席のチケットになります」


「関係者席?!そんなものいただけませんよ!」


市街地から少し離れた場所にある川から打ち上がる花火、その規模は日本でも上位に入るもので、毎年多くの人がその花火を楽しみに遠くからも来るのだ。近くの道路は全て閉鎖され、多くの屋台やイベントが開催される。その規模の関係者席となるととても迫力のある花火を見ることができる。私も数年前に連れて行ってもらい、関係者席で観たが、あまりの綺麗さで今でもはっきりと記憶に残っている。


「鷹藤家でどうぞと言われて頂いたチケットなのですが、私と仁さんはどうしても花火大会の日には予定が入っているため行けないんです。無駄にするのも勿体無いので、どうぞ凛と一緒に行ってきてください」


「でも鷹藤家の人間でもない自分がこのチケットは・・・」


「君はもう鷹藤家の立派な関係者だよ」


車を門の前まで持ってきたお父さんが戻って来て、すぐに状況を理解したお父さんが後ろから優しい声を掛ける。


「君は凛の大事な友人だ、そんな君にはこのチケットを使う権利がある。それにこの花火大会は家が大きく関わっていてね、花火のプログラムにも口出しをさせてもらっているが今年のは例年に負けず劣らずすごく綺麗な花火が打ち上がるよ。それとももうすでに誰かと行く約束があるのかい?」


「いえ、約束とは特にないんですが・・・」


「良いじゃん!行こうよ翼!この花火大会私も観に行きたい!」


「ほら、凛も行きたがっているしどうか行ってあげて欲しい。終わることには私たちも帰宅をしているだろうし、花火大会の日は家に泊まっていくのも良いだろう。私ももっと君のことを知りたいからね」


「そこまで言うなら・・・ありがたく頂戴します。泊まりのお誘いもありがとうございます。その日はお世話になろうと思います」


「そういうことなら、準備しておきます。それでは翼さんまた花火大会の日に」


「はい、ありがとうございます。じゃあ凛またな」


「うん!お店にもいくからね」


「ああ、待ってるよ」


翼は手を振り、お父さんと共に玄関を出ていく。

花火大会にも一緒に行けて、まさかお泊まりの約束までしてくれるとは、お父さんには感謝をしなければならない。翼には私の部屋で寝てもらおう、私のベットは広いためもう一人寝るくらいなら余裕だ。


「凛?翼さんが泊まるからって一緒の部屋に寝るのはダメよ。翼さんには客間で寝てもらいます」


私の考えを読んだかのように、お母さんが言う。お母さんは人の心を読む力があるのか、今のように急に釘を刺してくることがある。


「別に良いじゃん!」


「ダメなものは駄目!凛が良くても翼さんが可哀想でしょ!」


「私のベットで寝てもらうんだから寝心地に関しては問題ないでしょ?そんな可哀想なことなんて・・・」


「あなたがそうだから翼さんが可哀想なの・・・ほんと翼さんには気苦労を掛けるわね・・・」


何やら私に対して呆れているようだが、何のことかさっぱりだ。

花火大会か・・・それならあの用意は必須だろう。確か家にあるはずだから当日までに確認しておこう。


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