第55話
「ごちそうさまでした」
他愛もない話をしながら、夕食を終えた私は翼のプレゼントを自分の部屋から取りに行く為に立ち上がると、テラスに翼とお父さん二人の姿を見つける。何か真剣そうな話をしている雰囲気なので、テラスには顔を出さずに真っ直ぐと自分の部屋へ向かう。
鞄に入れておいたプレゼントはお店で包まれた時のそのまんまを保っており、綺麗な包装だったため一安心だ。これで包装がぐちゃぐちゃになっていたら落ち込むどころの話では無くなってしまうところだった。
渡し方に関してはもう何か特別なことをするでもなく、シンプルにそのまま渡すことにした。特別なことをしても良かったが、翼がそういうのが好きではないということはもう知っている。
一階に降りると、テラスにいた二人は話終わったのか椅子に座っており夕食時よりも明らかに打ち解けた様子だった。テラスで話して何か変わったのだろうか・・・?
私は翼の隣に座り、プレゼントを取り出す。こういう経験は今までしたことがないため緊張する。少し手が震えてしまっている、きっと喜んでもらえるか心配なんだ。大丈夫、翼のために一生懸命選んだものなのだからきっと喜んでくれる。
「つばさ・・・ちょっといい?」
「どうした?」
「えーと・・・その・・・これ!お誕生日おめでとう!」
「え・・・?あ!そっか!」
プレゼントを差し出された翼は、大層驚いておりまるで今日が誕生日だったなんて忘れていたかのような反応だ・・・
「その様子だとまさか誕生日だったこと忘れてた?!」
「いや、俺の誕生日って毎年夏休み中だったから家族以外には祝われたことがないんだよ!今日は家族と顔を合わせる前に家を出てきちゃったから・・・そうか俺って今日誕生日か・・・よく俺の誕生日分かったな?凛にも安藤にも教えてないだろ?」
「あーっと・・・終業式の日に生徒手帳をチラッとね・・・?今日のはずなのに一回もそんな話題出してこないから、まさかとは思ったけど忘れているとは・・・」
「そうか・・・ありがとう!偶然とはいえまさか凛と一緒に誕生日を過ごせてプレゼントをもらえるなんて思わなかった・・・!」
翼は目に少しの涙を溜めながら笑っていた。こんな嬉しそうな翼を見るのは初めてだ・・・その笑顔は今まで見てきた翼の表情の中で一番素敵なものだった。
「翼くんおめでとう」
「翼さんお誕生日おめでとうございます!ケーキも用意してありますのでこちらも食べましょう」
お母さんはキッチンから切り分けたチョコケーキを運んできてくれる。チョコケーキにしたのは翼が生クリームが苦手なためだ。
「ケーキまで・・・!」
「いつもお世話になっている方のお誕生日なのですからこのくらい当然です。今日はどうぞお寛ぎください」
「十六歳か・・・君の容姿を見ると錯覚してしまうがまだまだ若いね。これからも色々あると思うが、人生は長いからね。この一年が君にとって良いものになるよう願っているよ」
「本当にありがとうございます!凛!このプレゼントも開けていいか?」
「もちろん!」
翼は嬉しそうに、丁寧にプレゼントの包装を剥がしていく。
「これは財布?しかも革だ・・・!」
青い綺麗なお財布を触りながら、驚いた様子を見せる
「そう!長く使えるものと言ったらお財布!革だから使い込んでいけば味が出るからきっと世界に一つだけのお財布になるよ!」
「で、でもこれすごく高かったんじゃ・・・」
「良いのいいの!良いものにはそれなりの対価を支払うのが鷹藤家の教え!そうでしょお父さん?」
「そう!高いものにはそれだけの価値があると言うことだ。そして贈る相手もそれだけ大切な人という証。このお財布も凛が君のために一生懸命選んだものだ、どうか気後れせずに受け取ってあげてほしい。」
「わかりました・・・!凛ありがとう!スッゲー嬉しいよ!これからずっとこの財布を使わせて貰う!」
彼はプレゼントのお財布を抱きしめながら嬉しそうな顔でそう言う。こうやって素直な気持ちを出している翼は、どこか小さな子供のようですごく可愛らしい。
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