第53話

現在時刻午後6時 

私と翼は鷹藤家前にいる


「ほらほらいつまでそうしてるの?早く入るよ?」


私の家に行くことが決まった後の喫茶店巡りもとても楽しく、今日だけでたくさんの珈琲の特徴、味を知ることができた。少しの酸味や苦味が珈琲本来の味を大きく変えることになり、その特徴をしっかりと出すために店ごとに焙煎の方法を変えていることを、店員さんに教えてもらうこともできた。翼ともたくさん一緒にいれて、たくさんお喋りもできてとても満足な一日だったのだが・・・


「あと一、いや三分待ってくれそれまでには覚悟を決めるから!」


今日の喫茶店巡りを計画してくれた翼本人は、私の家に入ることに緊張しているのかさっきからこの調子で門の前で立ち往生している。


「別に家に入っても取って食ったりはしないんだから早く行くよ!」


こうしていても埒が明かないため私は翼の手を取り、無理やり敷地内に入らせようとする


「いや本当にまってくれ!頼むから!」


「家の前で随分と仲がいいやりとりをしているね」


わーわーと私たちが騒いでいると、後ろの方から男性の声がするため振り返ってみると私は見慣れた人物が立っていた。


「あれ、お父さん!おかえりなさい!」


「え、お父さん?」


立っていたのは、優しそうな顔立ちにメガネをかけた鷹藤 仁(たかとう じん)。私の父であり、鷹藤家現当主だ。


「知っている顔が男の子を連れ込もうとしているからびっくりしたよ」


「連れ込もうなんて、そんな乱暴なことはしていない!諦めが悪い翼が悪いの」


「そういうのを連れ込むっていうんだよ。ああ、ごめんね。ここで話すのもなんだから中に入ろうか。君が翼くんだね?」


「は、はい!白藤 翼です・・・」


「歓迎するよ。料理はもう完成していると瞳さんからは連絡が来ているから行こうか」


「お邪魔します・・・」


流石に家主に歓迎されてしまったためか、翼も先ほどまでの抵抗は見せずに大人しくなってくれた。というか何にそんなに緊張をしているのだろうか?


「お帰りなさい、楽しかった?」


玄関をくぐり、リビングまで行くとお母さんがご飯の用意をしながら出迎えてくれる。


「ただいま!楽しかったよ!」


「翼さんも家の娘のわがままを聞いてまた来てくださりありがとうございます。またお顔を見ることができて嬉しいです」


「こちらこそありがとうございます。今日はご馳走になります。あ、ご飯の用意手伝いますよ」


「あら、本当?じゃあお願いしようかしら」


むー・・・わがままを言ったのは確かだけども・・・

翼がキッチンに行き、お母さんと二人で楽しそうに話しながらご飯の用意をしているのを見ながら、私はテーブルに着く。


「いい子だね。礼儀もしっかりとしている」


先に座っていたお父さんも、翼のことをしっかりと目で追いながら話す。お父さんがこの目をしているときは品定め、どういう人物かを測っているときの目だ。この目をしているときのお父さんは少し怖いため正直私は好きではない・・・


「おじい様にしっかりと訓練されて、接客に関しては自信があるって」


「確かご実家が喫茶店をやっているんだったね。あの容姿で店員をやっているのならよほど人気だろう」


「確かに店員をしているときの翼はかっこいいからお客さんにもモテてるんじゃないかな」


私が何気なく溢した一言に、お父さんは驚いた様子を見せる


「どうかした?」


「いや、凛の口から男の子を褒める言葉が出るとは思わなくてね。昔から凛ってそんなに同級生の男の子と関わることが無かったからびっくりしたよ」


「私だって素直に人を褒めることくらいはできるよ・・・それに私が男の子と関わってこなかったのは私に擦り寄ってくる人しかいなかったからだよ?」


「凛も贔屓目なしに見てすごく可愛いからね。若い頃の瞳さんにそっくりだよ」


「モデルができるくらい?」


「世界一のね」


「それは言い過ぎだよ」


そんなたわいも無い会話をして二人で揃って笑う。私はお父さんとのこういう会話が好きだ。仕事モードが終わったお父さんは愉快な人で、彼が話す話はとても面白い。昔からたくさんの業種の人と関わって来たためその話を聞くのは勉強にもなるため今までたくさん聞いてきた。そうして私の教養は備わって来たのだろう。








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