第50話

最初に行った喫茶店は古き良きといった感じでは無く、おしゃれな雰囲気で客層も若い人が多く、比較的年齢層が高いお客さんが多い「翼」とは真逆と感じるお店だった。


「このお店はコーヒーを若い人にも楽しんでもらうために、気軽に入店をできるような外観にしたらしい。それにちゃんと味も美味しいらしいから、凛の舌に合うものもあるはずだ」


「本当にしっかり調べてくれたんだね・・・」


このお店は確かに外観は良いが立地は決して良いとは言えない場所にあるため、しっかりと調べないと知ることもなかったお店だろう。現に私も近くにこんなお店があるなんて知らなかった。


「そりゃあ凛に色々覚えてもらいたいからな、俺もそれなりにいいところを選んだつもりだよ」


「私のために調べてくれたの?」


「そりゃまあ・・・」


「ふふん♪」


「なんだよ」


「なんでもない!あ、私はこのブレンド飲むけど翼は何飲む?」


翼が私だけのために何かをしてくれているというだけで嬉しいのだ。しかし優しい彼のことだからこういうことを他の女性にもしているのだろうということを思うと、なぜか胸がザワザワする感覚を覚えるのは何故だろう・・・こういうことは私だけにして欲しいのだ


「俺もそのブレンド飲むよ。他の物も飲みたいけど別にウチでも飲めるしな」


「じゃあ頼もうか!」

   

若い綺麗な店員さんを呼び、二人とも同じものを頼む。

店員さんは目の前の翼に少し見惚れているようだったため私は少し圧を出しておく。

私の圧に気づいたのか、店員さんは注文を受けるとそそくさと奥の方に引っ込んでいく。


「あの人すごく怯えた顔してたけどどうしたんだろ・・・心配だな」


店員さんの対応に違和感を感じた翼は不思議そうに眺めているのだから、無自覚に人の目を惹きつけてしまう彼も大変だなと思う。


少し翼と話しながら待っていると注文のコーヒーが届く

一口飲んでみると、酸味が強いという第一印象から今度は強い苦味がくる。この酸味は少し感じたことがある。


「これって多分キリマンジャロ使っているよね?」


私が呟くと翼はメニュー表を見て驚きの声を上げる


「本当だ!よくわかったな!」


「酸味が強いっていうのと味わったことのあるものだったから覚えてたのかも」


「いや、すごいな・・・豆の種類なんて普通は何回も飲んでやっと覚えられるものなのに一回飲んだだけで分かるなんて凛はマジでソムリエの才能があるんだろうな。また新しい凛を発見できたよ」


カップを傾けながら、翼は嬉しそうに言う。


「私のことを知れただけで嬉しいの?」


「そんなの当たり前だろ。凛は俺にとっては大切な人なんだからその人のまた新しい面を知れるなんて嬉しいことだよ」

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