第48話

七月三十日

今日は待ちに待った翼との喫茶店巡りの日だ。そして翼の誕生日でもある。

今日も暑いため夏らしい涼しい服装にしたいが、今日は私から見ても顔が良い翼の横を私服で歩くのだ。適当な服装で行ったら翼にも失礼なため多少は力を入れた。とは言っても飾りが派手な服を着るわけでもなくただカジュアルに、翼の横を歩いてもおかしく思われない程度にだ。

白Yシャツに黒のフレアキャミワンピースを合わせる。これだけでだいぶ清楚感も出るし、私のロングの髪にも合うカジュアルコーデだ。足元もスッキリとさせるために白いスニーカーを選ぶ。厚底のものにしようかとも思ったが、今日はたくさん歩くはずなのでスニーカーにする。あとは簡単なメイクをして、バッグの中に翼へのプレゼントがしっかり入っているかを確認する。


今日は翼が家までお迎えに来てくれるというので、おとなしく待っておく。

待っている間にリビングに居る、お母さんに今日の服装がおかしくないかだけ確認しておこう。元モデルの言うことを聞いておけば間違い無いのだ。


「お母さん、この服装なら翼の隣歩いてもおかしく無いよね?それなりにカジュアルな服にしてみたんだけど・・・」


「もちろん大丈夫・・・いや、少しアレンジしよっか。ここに座って」


お母さんは私の服装を少し見てからそう言うと、私の後ろに回ってヘアゴムと櫛、そしてヘアアイロンをを取り出す。


「この黒髪も随分と伸びたわね、まるで昔の私を見ているみたい」


ヘアアイロンの電源を入れながらお母さんは愛おしそうに呟く。


「お母さんも昔はロングだったの?」


今のお母さんの髪型は黒髪ではあるが、肩に掛かるくらいのボブであり、ロングだった頃のお母さんの姿を私は見たことがない。元モデルということもあり、もちろん写真は残っているらしいが不思議なことに私は一度も見たことがない。


「もちろん。モデル時代は黒髪ロングの清楚なお嬢様として売り出されてたから、勝手に髪の毛を切ることもできなかったし、ヘアサロンも事務所の指定の場所にしか行くことを許可されなかったから色々大変だったわ。本当はショートにもしたかったし好きな髪型を色々試してみたかったけど、こうやって色々制限しているからお金が貰えているということは分かっていたから割り切っていたけどね」


慣れた手つきで私の長い髪の毛を櫛で梳いてゆく。そういえば昔はよくこうやってお母さんに髪の毛を整えてもらったけ・・・自分でヘアセットをできるようになってからはめっきりだが、今こうしてやってもらっているのはすごく懐かしく感じる


「今日は暑いらしいから涼しい髪型にしようか」


お母さんはそう言うと耳前の髪の毛以外を一つ結びにしてから、先ほど残していた耳前の髪の毛を左右どっちとも三つ編みにする。慣れた手つきで左右の三つ編みを一つ結びに巻きつけてゴムでまとめていく。


「はい、これでローポニーと三つ編みを合わせた可愛い可愛い髪型の完成!どう?」


「すごい・・・可愛い・・・」


手鏡に映る自分の髪型を見て思わず声が漏れる。一見普通のローポニーテールなのにサイドの三つ編みが合わさることで、立体感も出て一気に華やかさがプラスされているのが分かる。それに首周りもスッキリしたので先ほどの髪型から一気に涼しげな印象になった。


「この髪型ならその服装とも合うし年相応よ」


「すごい・・・本当に可愛い!ありがとう!」


普段は面倒くさいためしない華やかな髪型に興奮しながらお母さんに抱きつくと、家のチャイムが鳴った。


「来たみたいね、それじゃあ気をつけて行ってらっしゃい。翼さんによろしく言っておいてね」


「うん!行ってきます!」








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