第47話

終業式の日は楽しかった。久しぶりに翼と二人きりだったし、初めてのファミレスで知らない文化を経験することもできた、喫茶店にも行く事ができたため非常に充実したと言える日だっただろう。テストも全ての教科で学年最高得点を叩き出せたためお母さんも非常に喜んでくれた。


そして今日からは学生の天国である夏休みがスタートする。とはいえ私の生活リズムは基本的に変わらない。起床する時間が少しだけ遅くなる程度で、勉強も学力を落とさない程度にはやるつもりだ。去年の夏休みと違うのは、外に出る回数が確実に増える程度のことだろう。


今日は私も行くところがあるため外に出る準備をする。外は太陽が燦々と照っており、本格的に暑い日が続いている。

服装は・・・ドレスコードがある場所に行くわけでもないので、水色のスクエアネックのブラウスに、ベージュのロングスカートというシンプルな服装でいいか、それなりに動きやすく涼しいはずだ。

私は駅に向かい街に出る。人混みは苦手だが目的の場所が特定の場所にしかないためしょうがない。

駅を出てスマホに表示されている地図を頼りに目的地まで歩く。


「ここでいいのかな?」


今日訪れた場所は革製品を取り扱っているお店だ。お店の外観は木造だが古めかしくはないおしゃれなカフェのようだ。今日はここにとあるものを買いに来た。


チリンチリンと昔ながらの鈴の入店音がなる。店の中に入って最初に目に入ったのは、ブラウンや、青、赤なのど多数のカラフルな革製品達だ。その皮達は壁の棚に綺麗に整頓されており、店内は革の匂いが充満している


「ごめんください・・」


店内に入り、一応挨拶をしてみるが返事は無く、しんとしていた。店員さんは忙しいのだろうか?

だが商品自体は展示してあるため一人で見ていることにしよう・・・


店内にある革製品達の種類は様々で、スマホケースにキーケース、鞄にブックカバーなどもある。


「いらっしゃいませ」


私が店内を回りながら見ていると、店の奥から女性の声が聞こえてきた。突然のことだったため少しびっくりして身を構えたが、少しするとその声の主が出てくる。


「入店の鈴が聞こえずお出迎えができずごめんなさい。この店の店主です」


「こ、こんにちは!」


店主と名乗ったその女性は中年の朗らかそうな方で、にこやかな笑顔を私に向けてくれている。優しそうな方だ。


「本日はうちの商品を買いに?」


「はい。贈り物として良さそうだなと思い」


「それはありがとうございます!当店の商品はどれも耐久性には自信があり、デザイン面でも好評なのでプレゼントにはぴったりだと思います。ちなみにですがどんな方にお贈りされるものをお探しですか?」


「えっと・・・いつも私のことを見てくれている大事な人ですかね・・・誕生日プレゼントといつものお礼として贈りたいんです。でも具体的には何を贈るかはまだ決めていなくて・・・」


そう、今日は翼へのプレゼントを買いにきた。

翼の誕生日は七月三十日、今日は二十四日のため後一週間もない。

なぜ翼の誕生日プレゼントの調達がこんなにギリギリになったのかというと、終業式の日に翼の生徒手帳をチラリと見たときに知ったためだ。


「なるほど、なるほど。それなら贈る物の意味も含めて選んでみるのもいいかもしれませんね」


「意味ですか?」


「そうです。プレゼントにはどれも隠された意味があると言われています。例えばネックレスは束縛、指輪は自分のものにしたい、腕時計なら同じ時を刻みたい。などなど俗説なのであまり気にはしなくてもいいかもしれませんが、さまざまあると言われています。ホワイトデーの飴やマシュマロに意味があるのと同じですね」


なるほど・・・確かにプレゼントの裏に意味合いを込めればサクッと決められるかもしれないが、翼がその意味合いに気づくとは思えない・・・まあそんなことは気にしなくてもいいか。


「わかりました。少し店内を見てもいいですか?」


「もちろんです!最高のプレゼントになるようにじっくりとご覧ください」


彼女は「それでは」と言ってもう一回店の奥に引いていく。


さてと・・・意味合いを込めるとは言ってもきっと悪い意味の物もあるだろう。できればそういうのは避けて選んでいきたい。

少し調べてみるか・・・

スマホを取り出して、各プレゼントの意味を調べてみる。

なるほど、確かにどの物にも様々な意味があるらしい。このお店なら革を使った様々な商品があるため楽しく選べそうだ。


私が最初に目に入ったのは鞄だった。大きなショルダー型のバックで色も可愛いブラウンだが、翼はきっとこういう目立つものはあまり好まないだろう。それに鞄の意味も勉学に励めという同い年からのプレゼントとしては上から目線すぎる物なので却下だ。

次に目に入ったのはキーケースだが、私は翼が鍵を持ち歩いているところを見たことがない。家の鍵くらいは持っているのかもしれないが、それ以外の鍵を持っているかは定かではないため、キーケースはまた情報を集めてから今度送ることにしよう。


どうしようかとウンウン唸りながら店内を回っていると、一つのものが目に入る。


目に入ったのは綺麗な青色をしたラウンドジップ型の長財布だった。嫌味のない上品な色で高校生が持っていてもおかしくないものだ。それに長財布のため使い勝手もいいだろう。彼も今は長財布を使っているため困ることはないはずだ。

値段は・・・まあ想像通りだ。このお店は質の良い革製品を取り扱っているのだから、それなりに値段が張ってしまうのはしょうがない。私は良い製品ならいくらでもお金はかける主義だ。それに財布というのは金運にもつながるものだ、良い物をプレゼントする分には悪くないだろう。


「綺麗ですよね、これ」


私が無言でお財布を長時間眺めていたからか、先ほどの店主さんが声をかけてくる。


「これに使われている革は経年変化が出やすいもので愛着が湧くと言われているんです。このお財布なら、今の明るい青色から深海のように深い青になるという変化を楽しめますよ」


「お財布にも何か意味はあるんですか?」


私は少し気になって聞いてみる。一応悪い意味ではないか知っておきたい。お財布ならよくプレゼントとして贈られているはずなので悪い意味はないと思うが、一応念のためだ。


「もちろんありますよ!お財布はいつも持ち歩くものなので『いつも一緒にいたい、離れたくない』などの意味があると言われていますね。大事な人に贈るものとしては百点満点だと思います!」


「『いつも一緒にいたい』か・・・これください!」


私は意味合いを教えてもらうと即決で購入することを決める。意味合いもピッタリだ!このお財布をプレゼントしたらきっと翼も喜んでくれるはずだ!


「お買い上げありがとうございます。せっかくなので革のお手入れセットも無料でお付けしておきますね。クリームや馬毛のブラシなどのお手入れのための一式が入っているので、ご一緒にプレゼントしてあげてください!」


「ありがとうございます!」


私は店主さんにお財布の代金を払い、見送られながら店を出ようとする。が、そこで一つあるものに目が止まる。


「すみません、『これ』も一緒にください」


店主さんに一つの商品を指差しながらお願いをする。


「『これ』ですか・・・?これもプレゼントに?」


「はい、一目惚れですが絶対に喜んでくれるはずなので」


「分かりました・・・『これ』とお財布を贈るお客さんは本当に贈り相手の方がお好きなようですね」


店主さんは笑いながら言う


「そうですね。誰にも渡したくない人です」


私は正直に言う。別にこの人相手なら何を言っても良い気がしてきた。きっと年齢差が祖母と孫くらいあるため安心感があるのだろう。


「・・・じゃあこのプレゼントはぴったりです。喜ばれますよ」


追加購入した物を袋に入れてもらい、今度こそ私は見送られながら店を後にした。

さて・・・翼は喜んでくれるかな?


楽しみだ




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