第44話

私たちが恥ずかしい思いをさせられた忌まわしい勉強会から三日が経ち、テスト当日がやってきた。

自分としては満点を取る自信しかないが、勉強会に参加をしていた他の四人はどうだろうか?翼と玲さんは私が作ったテキストをやっていたし、直々に指導をしたため二人とも確実に上位には入る結果を出せるだろう。

それに私としては正直、明さんと友希さんが全ての勉強会に参加をして、あそこまで真面目に勉強を頑張ってくれるとは思っていなかった。失礼ながら普段の素行を見る限り、勉強を好きと言う感じではないと思っていたため勝手に休む日もあるだろうと思っていた。しかし始まってみれば翼と同じように真面目に黙々と自分の苦手教科をやっており、多少不真面目でも同じ進学校の生徒であることを再確認した。


「あれ、凛おはよ」


私が下駄箱で靴を履き替えていると、登校をしてきた翼達三人が声をかけてきた。この三人で登校をしているのは久しぶりに見たなと一瞬思ったが、それは私が翼のことを独り占めしていたんだと思い出す。いくら翼と一緒にいることが心地いいとはいえ、彼の大切な友人との時間を奪う権利は私には無いため、少し一人でも行動することを最近は心がけるようにしている。


「おはようございます。本日は三人での登校ですか?」


「ああ、今日のテストに向けて三人で問題を出し合って来てたんだ」


「それは偉いですね」


「まあ俺たちも夏休みを補習で無くしたくはないからな!」


「ですね。この学校の補習は厳しいらしいので、皆さんも補習は免れるよう頑張ってください」


私は翼の後ろで頑張って英単語を詰めている明さんと、参考書を読んでいる友希さんに声を掛ける。まぁ翼は大丈夫だろう。


そのまま玄関から四人で並んで教室に向かい入室をすると、教室内はいつものような活気はなく、みな参考書を読み込んだり、問題を出し合ったりしていた。このテスト前独特の緊張感というものは異質なものを感じるが、それだけ皆真剣に取り組んでいるということだ。邪魔はしないでおこう。


「この雰囲気久しぶりだな」


「入試の時もこんな感じ・・・いや、あの時はもっと殺伐としてたか」


最大限まで三人に勉強を教えるために、私も翼達の席に向かっている途中に前では翼と明さんが話している。


「あれは状況が違うし、みんな『自分以外は敵』みたいな雰囲気出してたからな・・・」


明さんは入試の時を思い出しているのか、椅子に座りながら身震いをさせて話す。

確かに今日の教室の雰囲気は入試の時に似ている。自分も周りの人間ほどではなかったが、それなりに他の受験者に対して威圧感を出していたかもしれない。受かる自信は十二分にあったが、あの本番の空気感ではその自信も少し萎んでしまった。それほどあの時の空気感というものは凄いものだった。


「そういえばあの受験の時にはすでに凛のことは知ってたな」


「え、そうなんですか?」


私が入試の時のことを思い出していると、翼が興味深いことを言い出した。私のことを入試の時には知っていた?なぜだ?


「入試の時にすんごい美人がいるとかなんとかで男子の中で話題になっててさ。あの時は名前は知らなかったけど、俺たちも顔は見に行ったんだよ」


「そうなんだ・・・」


その話は知らなかった・・・いや、でも思い返してみればなぜか私の受験会場の教室には男子が多く群がっているなと思った記憶がある。


「大事な入試の時にそんなことで盛り上がれるなんて、男子は随分と余裕だったのね」


四人で話していると今さっき登校して来たであろう玲さんが呆れ顔で私を除く、男子三人を見る。


「他の受験者の顔なんて私はもう覚えてないわよ」


「俺も凛以外誰が居たかなんて覚えてねぇよ。凛がすごく美人だったから記憶に残っているだけだ」


「ふーん、まあ確かに私も入試が終わった後に姫の話題は聞いたことがあるから気持ちはわかるけどね。どこの人かは分からないけど凄い可愛い子が居たって中学の時クラスの子に聞いた」


私って入学前からそんなに有名だったのか・・・私が通っていた中学校は普通の公立で、この高校に進学したのは私を含めて片手で数えられる程度の人数しかいない。そのため私のことを知っているのはごく少数のはずなのに入学して間もない頃からたくさんの人から話しかけられるため、不思議に思っていたのが今謎が解けた。


「姫昔話も良いけどとにかくこの問題の解き方教えてくれ。英語まじで詰む」


明さんが必死に単語帳を見ながら、私に対して助けを求めてくる。

そうだそうだ。今はこんな話をしている場合では無い。今はとにかく目の前のテストに集中するようにしないと・・・



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