第42話

 「あのさぁ・・・二人ともちょっと良い・・・?」


昨日の様に皆で集まり勉強を始めて30分程が経ち、私が翼に国語を教えている時に玲さんが呆れた顔で私たちに話しかけてきた。


「何か分からない問題がありましたか?」


「いや、勉強はすこぶる順調だよ・・・私が言いたいのはあなたたち少し距離が近すぎない?」


「「え?」」


予想していなかった指摘に私と翼は間抜けな声を同時に発してしまう。


「仲が良いことは大変よろしいけど、今は勉強中なんだから少し自重しなさい。二人のイチャ・・・じゃなくて仲の良さを見て明君と友希君も呆れてるんだから」


そう言われて二人の方を見てみると、明さんは苦笑いを浮かべながら私たちの方を見ている。友希さんは昨日とは比べ物にならないくらい勉強に集中しており、なぜか顔が赤い。


「俺たち何か変なことしてたか?真面目にやってたつもりなんだけど」


私と同様の疑問を翼が玲さんに投げかける。翼の言う通り、私たちは普段通りのテンションで至極真っ当に勉強をしていた。なにか文句を言われるようなことはしていないはずだ。


「確かに二人は真面目に勉強‘‘は’’してたね。でもね、翼君が問題を正解するたびに姫が頭を撫でながら褒めたり、やけにくっついたり顔を近づけて勉強をしている場面を見せられている私たちの身にもなってね?」


「「・・・」」


顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。チラりと横の翼を見ると、翼も顔がリンゴのように赤くなっている。

正直完全に無自覚だった。確かに翼の面倒を見ることができるという中々無いチャンスに、テンションが上がってしまい張り切っていたため翼にはとにかく理解しやすいように説明して、子供に接するように優しくしていたとは思う。どうやらそのテンション感で接している内に、人前ということを忘れてしまっていたようだった。


「なんかすみませんでした・・・」 「なんかごめん」


「うわー、その態度気に食わない!明君!この二人が何してたか再現するから手伝って!」


私たちが渋々謝ったことがお気に召さなかった様子の凜さんが、今度は明さんを指名しだした。

しかし私たちには悪いことをしたという自覚がないため、そんな誠心誠意謝ることなんてできないためしょうがない。どうしてもこんな風な謝罪の仕方になってしまう。


「おっけー!」


急に指名された明さんは驚きながらもくもくと取り組んでいた問題集から目を離したが、直ぐにおもしろそうだとノリノリで了承をした。

玲さんは明さんの机まで行き、私と同じような体勢になる。どうやら本当に私たちがやっていたことを再現するようだ。


「よく見ときなさい?今からやることそのまんまあなたたちがやっていたんだからね!最初明君から!」


『なぁこの問題ってさ・・・』


明さんは翼君の声を真似ながら演技を始める。二人の声質は同じなのかすんごい似ている。今の一言でも分かるくらい演技も上手いため、演劇部にでも入ればすぐにエースになるだろう。


『一度このプリントに書いてある通りにやってみましょう!最初はまずしっかり文を読んで場面整理をしてみましょう!』


今度は玲さんが私の真似をする。これまた玲さんも演技が上手く、声もほぼ完璧に再現している。この際二人して一緒に演劇部にでも入ればいい。そうすればダブル主演の演目が出来上がるだろう。


二人はそのまま続けていき、彼女たちは確かに言っていたように頭を撫でたりやけに顔が近い状態で勉強をしていた。傍から見ていると確かにすごく恥ずかしい状態なのかもしれない。それにそれをやっている本人たちの顔もどんどん赤くなっていっている。そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいのに・・・とも思ったが、これは玲さんなりの仕返しなのかもしれない。


「わ、分かりました!私たちがやっていた事の恥ずかしさは十分分かったのでもうやめてください!謝りますから!」


三分ほど彼女たちが演技をしているのを見ていたが、とうとう耐えられなくなり大声をだしてしまう。このまま見せられていると私と翼が持たない・・・


「分かったようなら私たちも精神すり減らせた甲斐がありました!」


あ、やっぱり精神面では問題あったんだ・・・玲さんは満足した様子で赤くなった顔を何とか元に戻そうと必死に顔を仰いでいる。明さんは耳を赤くしながら机に突っ伏している。


「言い方は悪いけど正直私たちは二人が何をしようと害は無いから別に何をしてくれても良いんだけど、TPOをしっかりとしなさいということね?ちゃんとした場とかでさっきみたいなことをしていると姫は姫で困るからね。翼君も姫と一緒にいるときはなるべくしっかりする意識を持つこと。分かった?」


「はい・・・ごめんなさい」 「分かった。しっかりするようにする・・・」


「それなら良し!んじゃ勉強会再開しようか!」


こうして友希さん以外の全員が心に傷を負いながら、二日目の勉強会は再開することになった。

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