第37話

「今日は本当にありがとうね。色々初めての経験もできたし、珈琲のことを学ぶモチベーションにもなったしなによりとっても楽しかった」


初めての珈琲を作った後は器具のお手入れや掃除を終わらせて、翼が淹れてくれた一杯の珈琲を飲んで、今日は解散をすることになったため、カウンターに畳んだエプロンを置きながら翼に感謝の言葉を述べる。本当に今日は楽しかったし、様々なことを学べた。


「凜が楽しかったなら良かったよ。俺としても初心を思い出すことができてすごい懐かしい気持ちにもなれたからな」


翼は本当に優しいな・・・休日を返上してまで私と一緒に居てくれて、珈琲のことを教えてくれるなんて中々してもらえる事ではない。それに彼は私のことを第一に考えてくれているのだ。それが何より嬉しいのだ。


「私もお家で今日みたいに珈琲を淹れてみたいな・・・そんなに本格的じゃなくても大丈夫だけど、お母さんたちにも飲ませてみたい・・・」


「まあ器具自体はネットで簡単に買えるから不可能じゃないと思うけど、凜は豆の特徴を知ることだからな・・・ああ、じゃあこうするか!」


翼は少し考えてから私に一つの提案をしてきた


「今度一緒に色々な珈琲を飲みに出かけるか」


「珈琲を飲みに出かけるの?このお店じゃなくて・・・?」


珈琲を飲むだけならこのお店で大丈夫なはずだ。今目の前にある、珈琲豆が入ってる瓶を見ればそれは一目瞭然だ。


「まあこの店でも良いんだけど、凛には他のお店の珈琲を飲んで欲しいからな。そのお店独自のブレンドや、焙煎をした豆の珈琲を飲んで貰いたいんだ」


「お店独自の焙煎?」


「この前教えたみたいにセカンドクラックから火を離すタイミング次第で味が変わるように、そのお店独自の手法で焙煎した豆は簡単に味が変わる。勿論ブレンドとなるとまったく新しい味の珈琲が飲めるからな。ブレンドをしたい凛にはうってつけだろ?」


確かに私が知っている珈琲の味はこのお店の珈琲と、有名なチェーン店のものだけだ。他のお店に行く気なんて無かったし、考えてもいなかった。

それに私が最終的にしてみたいのは私だけのブレンド珈琲を作ることだ。翼が言うように様々なお店で色々な珈琲を飲んでみるのはいい勉強になるかもしれない。


「そうだね。私も色々な珈琲を飲みたいし行きたい」


「決まりだな!今度の週末・・・になるともうテストも近いから無理か・・・」


「ああ、そういえばそろそろテストだったね。忘れてたよ」


「お前はいつも勉強しているからだろ。俺らみたいにさぼっている人間からするとテストなんて怯えるしかない存在なんだよ」


「でも翼は特段成績が悪いっていう訳じゃないじゃん?」


確かに翼は普段の生活態度は良くは無いし、最近はまったくだが授業中に寝るということも珍しくなかったが授業には付いてきているようだし、特に困っている様子もないため頭は良いのだろう。

まず私たちが通っている高校は生半可な頭だと入ることすらできないため当たり前だ。


「俺は成績が悪いとここで働くことができなくなるからな」


「そうなの?」


「じいちゃんに言われてな。『ここで働くのは構わないが学生の本分は勉強だから成績は落とさないように』って言われててさ」だいじょう


なるほど。確かにその通りだ。このお店で働くことに集中しすぎて成績が落ちたなんてことになると大変だ。


「だからこれからしばらくはテスト勉強に集中するためにシフトも外してもらっているんだよ。理系は別に大丈夫だけど文系は少しちゃんとやらないといけないみたいだしな」


「文系科目が危ないの?」


「まあ文系って言っても国語だけだけどな。あの科目だけは昔からどうしても駄目なんだよ。暗記だけじゃどうしようもない問題が多いし、読む文章量も多いから時間を取られちゃうから時間配分が苦手なんだ」


「国語は文の中から答えを導く問題が多いからねぇ・・・苦手な人はとことん苦手っていうのは聞いたことある」


国語科目は漢字の書き取りや、四字熟語などの意味問題以外だと大抵文章から答えを導く問題になってしまう。それに物によっては作者の意図を読み取らなければいけない問題もあるため厄介だ。文章を読むのが苦手な人からすると一番厄介な科目だろう。


「それに明と友希に勉強を教えないといけないからな」


「あのお二人の成績はどんな感じ?」


「まあ良くはないな。もしかしたら赤点もあり得るって感じだ」


「ふむ・・・」


私は顎に手を置いて少し考える。この提案は皆の得になるし、悪くないと思うのだが急に誘うと迷惑だろうか・・・?

まあいいや。聞いてみよう。


「それじゃあ・・・一緒に勉強する?」


「良いのか?」


翼は意外そうな顔をする。きっと私がこんな提案をすると思っていなかったのだろう。


「もちろん!いつも翼にはお世話になっているし、あのお二人にも良くしてもらっているからね。私が得意な事なら喜んで協力させてもらうよ」


「それならまじで助かる。あの二人は吞み込みは早いんだけど、二人同時に教えるってなるときついって思ってたからな」


「人に教えるってなると私の力にもなるからね。一緒にやろうか」


「ああ!そうさせてもらうよ。あの二人には俺から話をつけておくよ」


こんな感じで今度は翼と一緒にテスト勉強することがあっさり決まった。

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