第33話

朝から翼が作ってくれたバランスの良い朝ごはんを食べて、しっかりと熱がもうすでに下がっていることを確認したため、私たち二人は一緒に学校に登校することになった。まさかこの家から二人一緒に登校する日が来るとは夢にも思ってなかった。


「翼さんこの度は誠にありがとうございました」


私たちが登校のために家を出ようと玄関口で靴を履いていると、お母さんが見送りのために来て、恭しく頭を下げて翼に感謝の言葉を伝える


「いえいえ!とにかく凜が元気になって良かったです。こちらこそ泊まらせて頂きありがとうございました」


登校前に玄関口で向かい合って頭を下げている。それに片方は学生服なので珍しい光景だ。


「またいつでもお越しください。それと・・・翼さんには『あの事』も前向きに考えていただけると幸いです」


「その事については当分長い間はお返事ができないと思いますが・・・しっかりと考えてはいきます・・・でも予定が会う日があるならまたお邪魔したいなと思っています。勿論今度は凜が元気な時にですが」


「そうですね。その時は主人ともぜひ会って行ってください。って、あぁもうこんな時間・・・それじゃあ二人とも行ってらっしゃい」


「「行ってきます!」」


なぜだがお母さんからお父さんの話題が出た時に横の翼の肩が跳ねるのを感じたが、その違和感はお母さんの見送りの挨拶ですぐに消えた。

二人で声を揃えて挨拶をしてから歩幅を合わせて庭中を歩く。いつも通っている庭のはずなのに、隣に誰かがいるだけで違う景色に見えるのは不思議だ。


「ねぇ翼・・・さっきお母さんが言っていた『あの事』って私が聞いてもいいやつ・・・?」


先ほどの会話で私が引っかかっていた部分のお母さんの発言。昨日初めてあった翼にお母さんは何を言ったのだろう・・・?それに翼自身も回答に困っているようだったので余計に気になる


「んー・・・今は教えられない。ごめんな。でも一つだけ言えるとしたら凜に関係あることってだけだな」


「私に関係あることって・・・まさか!翼も玲さんと同じように私が外で何かやらかさないか見張れって言われたんじゃ・・・」


本当にそれだけはやめて欲しい・・・確かに最近外での行動が危うくなっているというのは自覚しているためそれを直そうと頑張っているところなのだ。翼にも外でもっとしっかりしろと口うるさくされるのは適わない・・・


「別にそんなことは頼まれてないよ」


「え・・・本当に・・・?」


「本当に。ただお願いというか提案をされただけ。でもそれは今はただ答えられないから保留にしてもらってるって感じ。まぁ昨日も言ったけど時期が来たら凜にもしっかりと話すし、話せなかった理由も併せて説明するよ。だから今は待っててくれると嬉しい」


翼は話している時にしっかりと私の顔を、目を見て話してくる。翼の目は嘘をついている人の物では無く、ただ純粋な真剣にお願いをしてきている人の目をしていた。その目を見たときに、先ほどまで私の心の中でつっかえていたものが取れる音がした。


「分かった・・・翼がそこまで言うってことは本当に大事な話なんだ・・・それじゃあ私も翼が話してくれるまで待ってるね」


「ん・・・ありがとうな・・・それと本当にごめん」

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