第31話
「凛、そろそろ起きろ。学校遅刻するぞ?」
まどろみの中で声がする。いつもの目覚ましだろう。私は絶望的に朝が弱いため普通の目覚ましでは起きれないため、いつもこうやって起こして貰っている。これではいけないと分かってはいるが、これに関してはどうしようもないため最早あきらめの域に達している。
「あとさん、いやごふん・・・」
「なんで増えるんだよ・・・瞳さんに起こせって言われてるから強制的にでも起こすぞ」
あれなんでお母さんの声がこんなに低いんだ?
「あれ?なんで翼が家にいるの?」
「俺が昨日泊まらせて貰ったからだよ。もう忘れたのか?」
「ああ・・・そうか。そういえばそうだったね・・・」
昨日のことを思い出しながら、体よりも先に脳を起こし少し考える。そしてすぐに布団の中に隠れる
「なんで布団の中に隠れるんだよ。別に寒いわけでもないんだから早く起きろって」
「起こしに来てくれたのは本当にありがとう!すぐに起きるから先に下に行ってて大丈夫!」
私はできるだけ彼に姿を見られないように、布団の中で声を張りながら答える
「本当か?二度寝しないだろうな?」
「大丈夫大丈夫!本当にすぐに行くから!」
「分かったよ」
バタンと扉が閉まる音を確認してから、布団の中からのっそりと出る。そしてベットのそばで頭を抱えて座り込む。彼に寝起き姿を見られてしまったのでこうなるのも仕方がない。
本当に最悪だ・・・翼が起こしに来ると分かっていたら絶対に先に起きて髪の毛や、身だしなみを整えておいたのに・・・普段からメイクなどはしていないため普段とあまり変わらないとは思うが、今のぼさぼさの髪の毛を彼に見られるのは流石に恥ずかしかった。これ以上彼にこの姿を見られないためにもすぐに洗面台に向かい、髪の毛を整えてから彼とお母さんが待つリビングに行く。
「おはよう」
「友達が居るんだからもう少し早く起きようとは思わないの?」
顔を洗ってスッキリとしてからリビングに入ると、早々にお母さんから小言を言われる。いやまあ本当にその通りのことしか言われないため何か言い返す気にはならないが、一日の初めの一言目がそれなのはやめてほしい。
「これに関してはもう諦めているのはお母さんも分かってるでしょ?」
「言ってみただけよ。そんなことより、今日の朝ごはんは特別よ!」
私の悪びれない言い分に多少の呆れを見せながらも随分とテンションが高いようで、キッチンでルンルンになっている。
「今日は翼さんが早起きしてくれてね。朝ごはんを作ってくれたの」
「え!翼が作ってくれたの?!」
まさかこの家で翼のご飯が食べれるとは思っていなかった・・・それは本当に嬉しい特別な朝ごはんだ
「家に泊まらせて貰って何もしないっていうのは流石にと思ったからさ。瞳さんも起きてたから作らせて貰ったんだよ」
「昨日は私が泊まってと言って泊まらせちゃったんだから気にしないで良いって言ったんだけどね?本当にできた子ね」
「いえいえ・・・本当にこのくらいの事ならやらせてください。普段から料理自体はしているので」
二人の会話を私は椅子に座りながら静かに聞く
なにせ私は生まれてから一度も料理をしたことがないからだ。したくてもさせて貰えなかったから当然といえば当然なのだが、それでも少し居心地が悪いのは事実なのでこれからは私も少しづつ料理を勉強していくことを決意する。
二人が椅子に座るまで待ち、三人で手を合わせてから翼のご飯を食べる
目の前にある、綺麗な色をした卵焼きを口の中に入れると、口の中に甘味が広がる。しかもとってもおいしい。
「この卵焼きとってもおいしいね!甘い卵焼きは初めて食べたけど、控えめな甘さですっごくおいしい!」
私は興奮しながら、横に座る翼に味の感想を言う
「この家だと甘い卵焼きじゃないのか?」
「私が普段作る卵焼きはだし巻きなので、凜には甘い卵焼きは作ったことがないの。厚焼き玉子だとどうしても綺麗な色で焼くことができなかったからだし巻きを普段は作っているの。こんなに綺麗に焼けるのは素直にすごいし、羨ましいわ」
「自分からすればだし巻きを作れることがすごいと思います。自分も挑戦をしてみたことはあるんですが、どうしても綺麗に巻けなかったので」
だし巻きと厚焼き卵って同じ作り方で難易度も同じじゃないの・・・?
料理を普段からしている二人の会話に私は入ることができずに、もくもくと目の前にあるおいしいご飯を食べ続けることにする。
それにしても本当においしい。勿論お母さんのご飯もとても美味しいが、翼もそれに負けず劣らず美味しい。普段は食を楽しみにすることは少ないが、この料理を毎日食べれるとなると毎日が楽しくなることだろう
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