第30話

翼がお母さんと客間でお話をしている間に私はお風呂を入り、その他の準備をしてからすぐにでも寝ることができる状態にしておく。

今日は色々なことがありすぎて流石に疲れてしまった・・・しかし私よりも翼の方が何倍も疲れているだろう。彼には本当に心労を掛けてしまっている。いつか彼にもう関わらないで欲しいと言われてしまうのかもしれない。もしそうなってしまったら当分は立ち直ることができないだろう。

大分、熱も落ち着いたようなのでいつもの日課のストレッチをしていると、扉のノックと共に翼の声がする。


「凛、入るぞ?」


「いいよー!おいで!」


扉を開けた先に居たのは見慣れているはずの青年の翼では無く、湯上りで顔が火照りどこか色っぽい顔をしている翼だった。いつも後ろで結われている彼の長い髪の毛も今はすべて下ろされており、色っぽさに加速を増している。

流石に今の彼の顔を直視するのは難しいかもしれない。が、それを彼に悟られるのも嫌なため平然とした態度を取ることにする。


「何やってるんだ?」


「ストレッチ!いつもやってるの。私って昔から体が硬かったからこうやってストレッチして、体を柔らかくすることがいつの間にか日課になってたって感じかな。でも今は大分柔らかくなったからあまり気にしなくて大丈夫。翼はお母さんと何話していたの?」


すぐに返答を貰えるはずの質問をしたはずだが、彼はどうしてか私の質問に対して黙りこくってしまった。


「どうしたのー?まさか私の悪口でも言ってた?」


自分で言うのもあれだが、もし本当にそんなことを言われていたら泣く自信がある


「そんなことを瞳さんと喋る訳がないだろ?本当に何気ない会話だよ。でも凜には内容を教えられないだけ。別に気にしなくても大丈夫」


む・・・私に言えないことって何なのか気になるが、教えられないといわれてしまえば深くは追及できない・・・


「今は教えてくれなくてもいいけど、いつかは絶対に教えてもらうからね」


「まあ、いつかな」


いつものように軽口を叩いていると、私は翼に言わなければいけないことを思い出す


「翼、今日は本当にごめんね・・・私の我儘で翼を無理やり家に上げる形になっちゃったし、それなのに翼は文句も言わずにしっかりと私の事を看病をしてくれて私はすごく嬉しかった。それにお母さんとも会ってくれてありがとう。いつかは会ってほしかったから会ってくれたのは私的にも助かる」


「まあ、びっくりはしたけど看病はしっかりしないと駄目だからな。瞳さんもいい人だったし、凜のことも正式に頼まれてしまったからこれで俺も簡単には凜から離れることができなくなっちまったな」


「そう簡単に離れることを許可するつもりはないよ?それに私も翼にもっと珈琲のことを教えてもらいたいし、私から翼を離すつもりはないもん」


「それなら当分は大丈夫か」


そのあとも珈琲のことや次にいつお店に行くかなど話し込んでいると、部屋の外からお母さんの声が聞こえてくる


「あなたたちそろそろ寝なさい?明日も学校でしょ?」


時計を見てみると、時計の長針は10を差しており普段ならもうすでに寝ている時間だった。


「大分話し込んじゃったね。流石にそろそろ寝ようか」


「だな。俺は今日は客間で寝させてもらうことになっているからもう行くな」


「うん。おやすみ」


「また明日な」

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