第29話

「それじゃあ改めて。凜の母の鷹藤 瞳です。いつも凜がお世話になっております」


新手のドッキリを仕掛けた母は、今度は打って変わってフランクな態度で自己紹介をし始める。私たちのことを置いて自分のペースで話を進めてしまうのはこの人の悪い癖だ。


「いえいえ!自分の方がりん・・・さんにはお世話になっています!」


「無理にさん付けはしなくても大丈夫。いつも道理の翼さんを見せてくれると嬉しいわ」


「そうですか・・・?それじゃあそうさせてもらいます」


「翼さんは凜と同じクラスなのよね?凜は学校では大丈夫?」


お母さん・・・もしかして会う同級生にいつもこの質問をするつもりか?でも大丈夫。私は外では完璧を振舞っているため何か変なことを言われることは無い。・・・と思う


「学校では非の打ち所のない完璧少女ですよ。いつも頑張っているのでえらいと思います。勉強も完璧でスポーツもできる。まさに文武両道を形にした人間です。でも学校の朝の時間に寝るのは自分も想定外で困りました」


「ちょっと翼?!そこまで言わなくても良いの!」


「学校で寝るってどういうこと?」


ああほら・・・お母さんに知られると面倒くさいことになるからこれはできるだけ隠しておきたかった


「寝るとは言っても誰もいない空き教室で翼に見てもらいながら寝ただけだから大丈夫」


「翼さんに甘えすぎじゃない・・・?」


「別に自分は大丈夫ですよ。いつも凜は頑張っていますし、その息抜きができる場所は必要なのは自分も分かっているので。それに凜をお世話するのは嫌いじゃないので」


「あなたたちって本当にただの友達なのよね?」


「まあ」 「はい」


「そう・・・まあ今はそれでもいいか。翼さんはご飯食べた?」


「自分は特に何も食べて無いですね。さっき色々買ってきたのでこれを食べるつもりです」


翼は手に持った、様々な物が入った袋を見せながら言う

本当に長い時間私のことを見てくれていたのを今更ながらに実感して、彼には本当に感謝しかない。


「ご飯は大丈夫ね。それじゃあ翼さんは今日はもう家に泊っていって」


いや、それは流石にまずいのでは・・・?

私もそれなりに強引に彼のことを家に上がらせてしまったが、急に家に泊まれというのは私以上に強引だろう。

でも私も彼には泊って行って欲しいため何も言わない


「いやいや!それは悪いです!まだ九時なので全然一人でも帰れるので大丈夫ですよ!」


「大切な娘を数時間見てくれた子にそんなことをさせる訳にはいかないでしょ?それに私ももっと翼さんのことを知りたいから後で二人で話しましょう」


「それはお話という名のお説教ですか・・・?」


「それは翼さん次第かもしれませんね」


「ヴぇ・・・!」


「冗談です。ただ本当にお話がしたいだけなので大丈夫ですよ。凛、翼さんを少し借りていくわね」


「分かった。翼、私もお話したいから落ち着いたら部屋に来てね」


「俺が瞳さんに怒られ無ければな」


「そうだね。またね」


「ああ、また」

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