第27話

目を空けるといつも通りの天井が見えた。体を起こすと翼君に声を掛けられる


「お!起きたか。体は大丈夫そうか?どこかだるかったりするか?」


私の額には冷却シートが貼ってあり、ベットの傍には水などが置いてあった。

なぜ彼が私の部屋に居るのか一瞬分からなかったが、私が強引に彼をこの部屋に居れたことをすぐに思い出す。そしてこの熱さまシートは彼が用意してくれたものだとすぐに理解する。


「まだまだ体はだるいけど大丈夫そうだよ。ありがとう。ん…?」


「え」


まずい。自分の部屋だから敬語が外れてフランクなしゃべり方になってしまった・・・この喋り方は小学校以降身内以外には絶対したことがないのに!

ちらりと彼のほうを見てみると、急に敬語を外して喋る私にびっくりしているのか少し固まってから今度は急に笑い出した


「な、なんで笑うんですか!」


「だって久しぶりにタメ口の凜が見れたなって思ってさ。初めて家に来たときはそんな丁寧な喋り方じゃなかっただろ?だからなんかおかしくってさ」


「それは・・・あの時はまだ翼君に甘える気満々だったのでタメ口で喋りましたが、いざ人前で喋ろうとするとどうしても敬語が出てしまうんですよ。だから今みたいに家族以外にタメ口が自然に出たのは自分でも驚きました」


「今までは言わなかったけど俺はその敬語を無くしてほしいな。俺は敬語じゃなくてタメ口で、対等な立場で凜と喋りたいかな」


「?。私と翼君は対等な立場ですよ?」


「気持ちの問題だよ。敬語だとどうしても少しの壁を感じちゃうからさ。これはただ単に俺の我儘だから別に無理にってわけじゃないけどさ」


彼のお願いはできるだけ聞いてあげたい。しかし、この敬語で喋るというのはもはや癖だ。さっきは自分の家、自分の部屋だから気持ちが緩んでいたのかどうしてか敬語が抜けたが、また改めて彼に向けてタメ口で喋ろうと言われると少し難しいものがある。

でも、彼に我儘を言ってもらえるというのは悪くないものだ。なので私も彼の我儘に答える用にしよう。私が彼に今まで沢山聞いてもらった我儘を私が聞く番だ。


「分かった。翼の前だけなら私も敬語を外して喋るように努力するね。たまに敬語が出ちゃうかもしれないけどだんだんなおしていくよ」


言った直後に急に私がタメ口にしたからかもしくは名前を呼び捨てにしたからだろうか、彼は顔が赤くなっている。


「あれあれ?私がタメ口になって照れちゃった?可愛い所ですね」


「うるせえ」


彼は顔が赤いことがばれて恥ずかしいのか顔を隠すために急に後ろを向く。

別に恥ずかしがることなんてないのに・・・そういうところが可愛いからいいけど


「まあ冗談は置いておいて・・・本当にありがとうね。私はあんなに強引に翼を家に誘ったのにこんなにしっかりと看病してくれてるんだもん。今まで私は一人でもなんでもできると思ってたけど、もう翼が居ないと何もできなくなっちゃった!この責任は取ってもらうからね」


「責任て・・・まあ凜に俺が必要なくなるまで俺は凜の傍にいるつもりだから存分に甘えてくれても良いぞ。あ、それよりお腹って空いているか?凜が寝ている間に色々買ってきたから食べるか?」


「え、ありがとう・・・少しだけ食欲もあるし食べようかな」


「そかそか。なら選んでくれ。ゼリーとかおにぎりとかあるからさ」


袋の中を見ると確かに彼の言う通り様々な商品が入っており、おにぎりが数種類にゼリー類、飲み物など色々だ。


「本当はうどんとかの方がいいと思ったんだけど、病人にインスタントのモノ食べさせるわけにはいけないし、勝手にキッチンに入って作るわけにはいかないから今はこれで我慢してくれ」


「そんなそんな!色々買ってきて貰っているのに・・・本当にありがとうね」


「このくらいのことならいつでもするよ。ご飯食べたらもう一度熱測ろうな」


「うん!頂きます!」


と私が子供のように、おにぎりにかぶりつこうとしたところで大事なことに気づいた


「ちょっと待って!今って何時?」


「え?今は8時だな。あー結構な時間居たんだな」


「ていうことは・・・ねえ!私が寝ている間に誰か家にかえって・・・」


と彼に聞こうとした瞬間人生で一番聞いた声が玄関から聞こえてくる


「ただいまー!凛、大丈夫?!」


はぁ・・・本当に最悪のタイミングだ。

この状況を見たらお母さんが何を言い出すかは予想が着く。それに相手が翼となればその予想は更に強固になる。


「これって俺隠れてたりしたほうがいい感じ・・・?」


「そんなことしなくていいよ。むしろこの際だからお母さんのこと紹介するね。翼はいつも通りで居れば良いからね」


「了解」


母が部屋に入ってくるまでの短時間で私たちはいつも以上に簡潔に会議をして、これからの方針を決めた。人間土壇場だと本当によく頭が回るのだから不思議なものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る