第26話
私は翼君に付き添ってもらいながら一緒に私の家まで来てもらった。
「凜の家ってここらへんか?」
「もうそろそろ見えてくると思います。今更ですけど本当に付いてきてもらって良かったんですか?」
「38度ある人間を一人で帰らせる奴がいるわけないだろ。それに今日はご両親居ないんだろ?だから甘えとけ。それにお前は俺の前だけなら甘えるんだろ」
今日は両親が共に夜遅くまで家を空けているため家には誰もいない。とはいえこれは特段珍しいことでもなく、それなりの頻度であることだ。父は仕事で遅くなり、母は今でもアパレル関係の仕事が来るためたまにこうして家を空けることがある。しかし母は遅くとも夜の8時ころには帰ってくることが多いためそこまで困ることは無い。
「そうですけど・・・元はと言えば私が体調管理できてなかっただけのことなので翼君に迷惑を掛けるようなことではないのです」
「迷惑?」と翼君は不思議そうに首をかしげる
「俺はそんなこと思ってないぞ?病人は大人しくしてれば良いんだよ。今以上に風邪がこじれると、焙煎した豆で珈琲を入れれなくなるぞ」
「うっ・・・大人しくします・・・」
「それでいいんだよ。えらいな」
翼君は私の手を取りながら、もう片方の手で頭を撫でながら優しい声色で囁く。彼の手はとても心地良い物だった。
「あ、見えて来ました。あの家です」
「え?あ、あれ?」
私の家でもある鷹藤邸の門を指さしながらそういうと翼君は見るからに動揺をしていた。この反応は玲さんも初めて家に来た時に同じような反応をしていたため、こうなるだろうなとは予想をしていた。しかし家中は何ら変わりない、立派な庭がある少し広い家だ。
「予想はしていたけどやっぱり大きいな。びっくりしたよ」
「恐縮です。翼君も上がっていってください」
「えっ・・・いや、それは流石に駄目だろ」
「何でですか?!」
私は当然彼も家の中に入るものだと思っていたため彼の回答にはびっくりしてしまった。
「なんでってお前・・・同級生の女子の家に軽々と入っていいものじゃないのは一般常識だろ。しかもその相手が病人ともなればなおさらな」
「私は翼君のことを信頼しているので入っていいと言っているのですよ?それとも翼君は何かしようと思っているんですか?」
「何もしないけどそれはここだけの認識だろ?俺が言っているのは世間体の問題だ。もし俺が凜の家に入ったなんて知られれば碌でもない噂がまた広まるだろ。」
「翼君はその噂が広まるのは嫌ですか?」
「俺が嫌というよりはこれ以上凜に変な噂がたたないようにしたいというのが本音かな。別に俺はこれ以上変な噂がたとうが気にしないけど」
「そうですか・・・じゃあ」
そう一言だけ呟いて私は彼の手を取って彼と一緒に庭中を歩く
彼は少し戸惑いながらも手を振り払おうとしていたが、私は絶対に離さないようにしっかりと彼の手を握る。
玄関を潜り抜けてから、私はやっと彼の手を離す。
「凛!お前なぁ!」
「私は!世間体なんてどうでもいいんです!」
違う。こんなことを言うつもりじゃなかった・・・でもこの際だ、全部言ってしまおう
「本音を言います。私は翼君に部屋で看病してもらいたいです。とにかく甘えたいです。ずっと傍にいてほしいです」
気づいたら私は心の中で思っていたことを口にしていた。こんな我儘を言葉にして伝えてしまったら呆れられるのは分かっているのに口にしてしまった。
「分かった分かった!熱上がるからとりあえず早く横になるぞ!話はまた今度聞く。今日は俺の負けで付きっきりで看病をするから少し落ち着いてくれ」
「そうですね・・・分かりました」
私が急に大きな声を出して子供のようなことを言ったことに彼は動揺しているのか、両手を前に出して私のことを静止する。
私もこれ以上彼を困らせるのは本望では無いので、大人しく自分の部屋に向かう。
「ここが私の部屋です。荷物を持っていただいてありがとうございます」
黒を基調とした部屋で、壁と床以外の家具がすべて黒色の部屋だ。「女子なのにこんなに黒い部屋っていうのは珍しい」と、玲さんには言われたが自分は黒色が好きなため今の部屋のインテリアは気に入っている。
「早くベットで横になりな。体温計持ってくるから場所だけ教えて貰ってもいいか」
「階段を降りてすぐのところにリビングがあるので、その奥のほうにペン立ての中に体温計があります。分かりやすところに置いてあるのですぐに分かると思います」
「分かった。ちょっと待ってな。あ、どうせなら俺が取りに行っている間に着替えちゃえ。制服のままだと寝れないだろ。着替え終わったら声を掛けてくれれば良いから」
体温計を取りに行く翼君を見てから私は彼が言う通りにパジャマに着替えることにした。いつも適当に可愛いパジャマを選んで買っているのでデザイン面では普通に人前に出ることができるものだが、やはり彼の前でこれを着るとなると少し緊張をする。
着替えが終わったため彼のことを呼ぶとすでに扉の前に居たようで、手には家の体温計が握られていた。
「ほら、とりあえず熱測りな」
「ありがとうございます」
体温計を脇に挟みながら私は先ほどの自分の行動、発言をどう謝罪しようか考えていた。
いくら翼君に看病をしてもらいたいとしても、先ほどの行動は流石に身勝手が過ぎる。何を言われても返す言葉が見当たらないだろう。
はぁ・・・と心の中で一人反省会をしていると体温計の仕事が終わった音が鳴る。
「八度六分かまあ少し上がっているけど想定内だ。今はとりあえず寝ることを最優先にすることだな。ほらほら早くベットに入って寝なさい」
彼は随分慣れた手つきでベッドに私を誘導する。もしかしたら似たようなことを妹さんにもしているのかもしれない。
「翼君・・・あの・・・」
「さっきまでのことを何か引きづっているなら今は良いから、また話聞くよ。だから今はさ」
「そうですね。それじゃあおやすみなさい」
「ん・・・おやすみ」
ベットに入ると、いつも使っている安心感からか、もしくは彼が傍にいるからかすぐに睡魔が来て眠くなった。
意識が落ちていく中で、彼の手が私の頭に乗ることを感じた
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