第24話
「全体に均等に火が行き通る用にする感じで・・・あ、そんな感じ!それをもう少し続けてくれ」
生豆を網のようなものに入れてをれを火にかけながら、翼君に言われた通りに優しく網を振り続ける。
網の中でシャカシャカと音を立てながら動き続ける豆からは、少しづつ珈琲のような匂いがする。
真剣にやりながらも、私がふと気になって翼君の方を見てみると、彼は私よりもはるかに真剣に網の中の豆を見ており、その顔はやはりいつも以上の綺麗に見えた。どうやら私は今のように、真剣な彼の顔に弱いらしい。
「そろそろかな・・・」
網を振り続けること7~8分程経ったころだろうか、彼が呟くようにそう言うと、網の中の豆がパチパチと音を立て始めた。
「聞こえるか?このパチパチっていう音がファーストクラックと言って、一つの合図になる。ここからあと二、三分位炒ってもらうんだけど、二、三分経ったらセカンドクラックと言って今の音よりも小さい音が鳴るから、そこからは焙煎度、言い換えればどれだけ苦くしたり、酸っぱくなるか味を決める作業になる」
「分かりました。それじゃあ網を火から離すタイミングは私が決めちゃって大丈夫ですか?」
「もちろん!あ、でもやりすぎるとただ苦いだけの珈琲豆になっちゃうからそこだけは注意してくれ。豆ならいくらでも使っていいって言われてるから、失敗しても経験になるから別に失敗しても大丈夫だけどな」
私は翼君に教えてもらったように、ファーストクラックから二分ほど豆を炒っていたら、確かにファーストクラックよりも、小さく鈍い音がしてきたためすぐに網を引き上げることにした。すぐに引き上げたのは少しでもおいしい珈琲豆を完成させたかったからだ。最初に失敗すると後の経験にはなるが、最初に難しいことをして失敗をするよりも確実に成功できることを分かっている方法を取るのが賢い選択だろう。
「ん?もういいのか?」
「はい。翼君には少しでもおいしい珈琲を飲んでほしいので・・・」
「え、俺が飲んで良いのか?」
「勿論です!最初は私が飲みたくてやってみたいと言いましたが、今はこうしていつも一緒にいてくれて、色々教えてくれる翼君に私が作る珈琲を飲んで欲しいんです」
これは心からの言葉だ
いつも私の傍に居てくれて、何か特別なことをしなくても翼君となら無言の空間も心地いい。いつも私に珈琲を入れてくれる翼君にはいつか私が、私が淹れた珈琲を飲んでほしいと思っていた。
「そっか。それじゃあまた次に来た時に飲ませてもらうよ。」
「え?このままこの豆を使うんじゃないんですか?」
私は翼君がおかしなことを言い出したためなんとも間抜けな声を出してしまった。
「ああそういえば教えてなかったな。この豆は冷やして五日位は飲めないんだよ。だからまた次に凜が来た時に飲もうな」
「そんなんですか・・・残念です・・・。せっかく翼君に飲ませれると思ったのに」
「今日飲めないってだけだからな。逆に俺は今度の楽しみができて嬉しいぞ。まさか凜が俺のためにやってくれているとは思わなかったからな」
彼はニカっと笑いながら楽しそうてそう言ながら、豆を持ってお店の裏のほうに引っ込んでいってしまった。
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