第21話

「そうだよ。俺の母さんだ」


彼は頭を掻きながらそっぽを向いてそう言う。


「それで翼?この子はあなたの何なの?」


葵さんは一旦終わったと思った話題をまた持ち出して、翼君に問いかける


「別にただの友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」


「今まで女友達なんていなかったあんたがこんな綺麗な子と友達なんて簡単には信じれないわ・・・ねぇあなたって本当に翼の友達なの?」


「勿論ですよ。翼君は私の大切な友人です」


勿論この言葉は本音だ。彼は私の大切な友人であることは間違いではないのだ。それだけは断言をすることができる。

葵さんには更に私たちの関係を理解してもらえるように私は言葉を続ける


「翼君とはお店で会って仲良くなったんです。学校でもいつも一緒に居て、今みたいに一緒に登校することもあります」


私がなるべく簡潔に説明をすると葵さんは先ほどまでの訝し気な様子から一変して、今度は優しい一人の親の顔に変わる。


「なるほどね・・・まあ翼があなたに迷惑を掛けていなければ親としては何も言うことは無いわ。それじゃあ二人とも時間取っちゃって悪かったわね。学校頑張ってね」


彼女はそう私たちを送り出してまた歩き始める。と思ったら今度は何かを思い出したのか「あっ!」と言って私を呼び止める


「凜さん。ごめんなさい少し耳を貸してくれる?」


「え?私ですか?」


私は困惑をしながらも彼女の傍に駆け寄り、彼女に耳を預ける


「凜さんにはお願いがあって少し聞いてくれる?」


「はい・・・構いませんが、翼君と離れろといったお願いは聞き入れませんよ?」


「そんなことは言わないわよ。むしろ逆のお願いでね?凜さんには翼とずっと一緒にいて欲しいの」


「ずっとですか?」


葵さんはとても心配そうな顔をしながら言う


「翼はね、昔から人づきあいが得意な子じゃないのよ。あの子が友達になるのは本当に好きになった人とじゃないとすぐに関わらなくなるの。それが男子でも女子でも関わらずね。だから自分から離れていく人を追いかけるっていうことをしない子だったわ」


葵さんは悲しそうな、苦しそうな顔をしながら言葉を続ける


「あなたが翼にとって特別な存在だっていうことは一目見て分かったわ。だから凜さんには翼の手をずっと握ってて欲しいの。翼がどこかに行かないように、もうあの子の大切な人を減らしたくないの」


彼女のそういう顔はクラスメイトが私たちに向ける好奇の顔では無く、本当に翼君のことを心配していることが分かる。彼女の口ぶりからすると翼君は過去に何かあったことは想像できる。

だが私はそんなことを頼まれなくても大丈夫だ。


「大丈夫ですよ。私はどこにも行きませんし、離れるつもりはありません。もし翼君に離れてほしいといわれても離れてやるつもりはありませんから!だから安心してください。翼君に昔何があったかは分かりませんが、翼君は私にとっても大切な人なんです!私はそんな人をみすみす逃すような人間ではないので!」


彼は私にとっては初めて心の底から大事にしたいと思った男の子なのだ。これから先そんな人物が現れるかなんて保障はない。それならば翼君を逃がさなければ良い話だ。


「その言葉で安心した!あ、学校遅れちゃったらまずいからもう行かなきゃね。時間取らせちゃってごめんなさい。行ってらっしゃい」


「はい!行ってきます!」


彼女は安心した様子で微笑みながら、私たちのことを送り出してくれた。

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