第20話

翼君のお店であの指切りをしてから一週間が経った。

相変わらずクラスでの私と翼君の噂はされており、なぜか形を変えて様々な憶測を呼ぶことになっていた。

しかし私も翼君もその噂に触れることはなく、平穏に過ごすという方針に決めた。

しかし噂が出る時から確実に変わったことが二つある。


一つは私、「鷹藤 凛」のクラスメイトへの対応が明らかに変わったこと

二つ目は私と翼君がどんな状況でも一緒にいるということ


私のクラスメイトへの対応の変化を例えると、今まで一緒に遊びに行っていたクラスメイトとの接触が急激に減ったり、今までの八方美人の対応が塩対応になったりといった変化だった。

これはどうやら噂を流している張本人たちには効果覿面だったようで、噂を流しているのは女子というのは分かっていたのでその女子への対応が変われば自ずと噂は減少傾向に向かっていった。


二つ目の翼君と一緒にいるというのは文字通りで休み時間は勿論、登校、下校も一緒にしている。

一緒にしていると言っても私が彼の登校ルートに待ち伏せして、勝手に一緒にしているシチュエーションを作っているので朝から彼のお家に行ったりするということはしていない。

そして追加で変わったことは先週も話した翼君の友人の木戸さん。そしてもう一人住谷 友希(すみや ゆうき)さんと仲良くなった。彼も翼君の友人で、彼と木戸さんを含めた三人で一緒にいる所をよく見る。

住谷さんも良い人で、私が翼君と仲良くしていても特に理由も聞かずに普通に接してくれるためとても助かっている。


そしてもう一人大事な私の友人の玲さんは特に変わりなく私と接してくれており、彼女も特に何も言わずに私と翼君の会話を聞いていることが多く、少し納得がいっていない様子も見えるが私を怒らせることはしたくないのか何も言ってこない。彼女にだったら何を聞かれても怒りはしないのだが・・・私が怒りを覚えているのは、何も知らない部外者が人の友好関係を悪くいってくることが許せないのだ。それがいつも接している女子だろうが、所詮は上辺だけの関係。そんな彼女らに何かを言われる筋合いは私にはない。


そんな今日も今日とて私と翼君は朝から一緒に登校をしている


「今日の授業ってなんだっけ?」


「今日は午前授業なので数学と体育と英語ですね」


「え?今日って午前授業なの?初めて知ったんだけど」


「そうですよ!昨日の放課後に先生も言っていたし、掲示板にも貼っていますよ」


「生まれてから一度も掲示板なんて見たことない」


「そういうところですよ・・・」


いつも通りの彼の適当さに少し溜息をつきながらもそんなたわいもない会話に花を咲かせて学校への道を歩いていると、一人の女性が私たち、いや正確には翼君に声をかけてきた。


「あれ?翼。その女の子は誰?」


翼君に声をかけてきたのは随分と若い女性で、20代後半くらいだろうか?そのくらいの風貌をしている

彼女は随分と疲れている様子で目の下には隈ができており、とても眠そうだ


「げっ・・・なんでここにいるんだよ・・・」


「仕事を切り上げて帰ってきたのよ。もう何日も帰ってなかったしそろそろ休みたいからね。それでその子は?」


彼女は逃がしはしないといった様子で会話の話題を変えようとする翼君を追い込んでいく。

しかし私も翼君が私の知らない人と親しげに話しているのは面白くない・・・

ここは彼女に負けないように私も翼君に話しかけなければ


「翼君?この女性は誰ですか?随分と親しげな様子ですが・・・?翼君には私という女性がいるのですから他の女性との関わりなんていらないですよね?」


私がそういうと彼の顔はどんどんと青ざめていき、目の前の女性はなぜか先ほどまでの疲れている様子から一変してとても楽しそうな顔になっていく。


「ちょ、凛!今はそういう誤解を含むような言い方はだな・・・ていうかなんで他の女性と関わっちゃいけないことになっているんだよ!」


「なんでもです」


彼が私以外の人と喋っているのを見るのは本当に面白くない。この気持ちの理由は分からないが私以外の女性と関わらせるのはどこか心配だ・・・


私たちが言い合っている光景を女性は微笑ましそうに見ていると思ったら、今度は私に対して声をかけてきた


「えっとごめんなさい?あなたは翼のお友達?」


「そうですが・・・?あなたは?」


「ああ、自己紹介を忘れていたわね」


彼女はそういって自分の鞄の中から名刺を取り出して渡してくる


「私は白藤 葵(しらふじ あおい)。そこにいる不良の母です。」


「えっ!翼君のお母さま?!」


こんなに若い風貌をしているのに?!まだ姉と言ってくれたほうが信じることができるくらいだ


「失礼ですが本当にお母さまですか・・・?お姉さまではなく?」


「あら、面白いことを言うのね。本当よ。そこで固まっているのにも聞いてみれば分かるわよ」


「そうだよ。俺の母さんだ」

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