第11話
「もうこんな時間ですか・・・時間が経つのは早いですね」
私はお店に掛けられている時計を見ながらそう言う。学校を出るのが遅かったのもあるが時計の短針は既に6に差し掛かっており、外も少しづつだが暗くなっている。これは早めに出たほうがよさそうだ。
「凛さんは歩きで帰るのかい?」
誠さんが声を掛けてくる
「そうですね、なので今日は早めにお暇しようと思います」
「そうかい、じゃあ翼はせめて駅まで送ってあげな」
「それもそのつもり。女子っていうのに加えて、凛くらいのお嬢様だと一人で歩かせるのは危ないから」
翼くんは既にエプロンを脱いでおり、いつでも外に出れる格好になっていた
「私は一人でも・・・」
「いいからいいから!ほら遅くなる前に行くぞ!」
「は、はい!あっ、珈琲美味しかったです!ごちそうさまでした!」
「うん、またおいで。凛さんならいつでも大歓迎だから」
誠さんに挨拶だけして、カランコロンと音を立てて私達二人は店を後にした
「翼くんごめんなさい・・・送らせるようなことしちゃって」
「良いんだよ。元々そのつもりだったしまだ明るいとはいえ同級生の女子を一人で夜に歩かせるほど薄情じゃないよ」
「・・・翼くんってなんかいろんな女の子を勘違いさせてそうですね」
「何それ?勘違いってなんの?」
「自覚がないなら大丈夫です」
彼は紳士的過ぎる気がする・・・彼のアイドルフェイスで甘い言葉を掛けられたらすぐに好きになる女子は多そうだ。
しかもそれを無意識にやっているのだから相当の女子を勘違いさせてきたのは間違いないだろう。
「翼くんってお付き合いされている女性とかはいないのですか?」
私は唐突にそう聞いてみた。少しだけ気になったのだ。別に聞かなくても良いはずなのに聞いてみたくなった。
「付き合ってる人?そんな人はいないぞ。俺って元々そんなに女子と関わることも無いし」
「そうなんですか?翼くんって良く告白されている話を聞くのでてっきり彼女さんの一人や二人くらいいると思っていました」
「確かに告白はされるけど、どれも本気じゃない気しかしなくてなぁ、付き合ってもすぐに別れるくらいなら適当な人となんて付き合わないで、本当に好きな人と付き合うよ」
「ピュアというかなんというか・・・そういうところは他の男性にも見習ってもらいたいですね・・・」
「凛も告白くらいなら何度もされてるだろ?何回位された?」
「二桁は超えていると思います」
「うわっ、すっご・・・」
この会話は何か既視感があるが、彼の人の気持ちをぞんざいに扱わないというところは他の男性にも見習ってほしい。今まで私に告白してきた男性の中には、「別に好きじゃなくても良いから付き合って!」なんて言う人もいた。そんな邪な思いで告白してくる人なんて論外だが、そんな人間もいるんだなとその時は少しだけ悲しくもなった。そこまで人と付き合いたいなんて思うのだろうか?
「凛も苦労してるんだな・・・二桁超えるならより取り見取りだろうに、なんで誰とも付き合わないんだ?」
「なんでと聞かれると難しいですね・・・強いて言えば興味がないから、でしょうか」
「恋愛に興味がない?」
「そうですね。別に異性に興味がないというわけでは無いんですよ。かっこいい人を見たらかっこいいと思いますし、恋愛の物語も好きです。でも私自身が恋愛をするというのは想像がつかないです。まだ初恋もまだですし」
「高校生で初恋がまだっていう人は珍しいというか殆どいないと思うけど・・・じゃあもし仮に好きな人ができるとしたらどういう人だ?」
好きな人ができるならどんな人か・・・彼の質問は私が今まで考えたこともなかった事だった。うーん難しいな
そうだな・・・と考えているとどうやら一分くらいじっくりと考えていたようで、私は彼の「凛?」という声で答えがまとまった。
「好きになる人は・・・素の私を見てくれる人ですかね」
「そんなの今まで告白してくれた人の中にもいただろ」
「それがいないんですよ。告白してきた人に試しに名前で呼んでくれと言ってみたら、なぜか呼んでくれなかったんですよ。名前も呼んでくれないような人間を好きになるわけもないのに何を考えてるんでしょうね」
「それはただ単に恥ずかしかっただけだと思うけど・・・じゃあ名前を呼ぶ人はほとんどいないというわけか」
「そうですね。今のところは私の身内と翼くんくらいです」
「そ、そうか」
「このままの状況なら私が好きになる人は・・・」
と言いかけたところで駅についてしまった。
どうせなら今の言葉の続きは伝えておきたかったが、しょうがないそれはまた今度にするとしよう。
「駅についてしまいましたか・・・翼くん、送ってくれてありがとうございました。また明日学校で」
「ああ、気をつけて帰れよ。またな」
私は彼にお礼を言って、手を振りながらそこで別れることになった。
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