第7話

「姫!何帰ろうしてるんだ」


一日の授業が終わり私が帰る準備をしていると、焦った様子で翼くんが駆け寄って来た。


「いえ、お話なら帰りながらでも出来るかなと思い…学校でお話するのもあれですし、一緒に帰りながらそのお話をしましょうよ」


「いや俺と姫って帰る方向一緒なの?」


「一緒ですよ」


因みに嘘だ


『それに誰かに聞かれたくは無いでしょう?』


私は彼の耳元でそう囁き、鞄を肩に掛けた。


「ほら、行きますよ?男性は女性を待たせるものじゃありません」


「はあ…分かったよ。じゃあ帰るか」


彼は渋々といった様子だが、一緒に帰ることを了承してくれた。


「え〜!姫ちゃん今日一緒帰れないの?」


「ごめんなさい。明日の放課後どこか遊びに行きましょう!」


私達二人が一緒な帰ることを聞いたクラスメイトは心底残念そうにしていたが仕方ない。一緒に帰ることを提案したのは、人に聞かれないようにする他に狙いがあるからだ。



クラスメイトに別れを告げながら教室を後にし、私たち二人は並んで校門をくぐる。


「それで?お話ってなんですか?」


「それは姫も分かってるだろ?喫茶店のことだよ」


「それは分かりますが、どうかしたのですか?」


「黙っていて欲しいんだよ。俺は学校とあの店では別人だからさ、学校の奴には見られたくないんだよ。だから学校から遠いし、高校生は入らないであろう店で働いていたのに…まさか姫が来るとはなぁ…」


「なんで見られたくないんですか?あの時の翼くんかっこよかったですよ?」


「そりゃどーも・・・てか呼び方」


「あ、この呼び方は気にしないで下さい。男の子のことを下の名前で呼ぶこと夢だったんですよ。でも今まで外でそういう呼び方をできる相手もいなくて・・・でも翼くんにならしても良いかなって思ったんですよ。さらに言えば私は怠け者で、家では暇さえあればだらだらしているような人間ですよ」


「ふーん、そか」


「幻滅しましたか?」


「いや?別に良いんじゃないの?いくら名家の人間でも全員真面目じゃないといけないわけじゃないだろ。ていうか怠け者なのに外ではしっかりとお嬢様してるんだからむしろ偉いだろ」


意外な回答だった

私はきっと彼は幻滅すると思っていたからだ


「あら、意外ですね」


「俺をどんな人間だと思ってたんだよ・・・でも、そのカミングアウトはしてよかったのか?しかも俺なんかに」


「翼くんだからしたんですよ。もし喫茶店のことを黙っていてほしかったら今の私の話も黙っていてください」


「なるほど・・・そう来たか」


彼はこの交換条件に、口をヒクヒクさせながらも今の条件を飲むのだった。

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