第2話

彼は意外な提案をしてくれたが、私はそれを断る理由もなくもちろんお願いした。


「分かりました。あ、飲みながらで大丈夫ですよ。コーヒーは淹れたてが格別に美味しいですから」


彼にそういわれたため、お言葉に甘えて私はコップに口をつけた。口にコーヒーが入ってきた瞬間に確かな苦みと酸味、そしてどこかフルーティーな香りが口の中に広がった。


「こちらのコーヒーはエチオピアととある豆を配合していて、苦みが押さえ目で、エチオピアの甘み、フルーティーな香りが特徴のコーヒーになっています。苦みが押さえ目のため、コーヒーが苦手なお客様も美味しく飲めると好評なんです。マスターは特にコーヒー初心者さんに飲んでもらいたくてこのブレンドを作ったと言っていました。」

「なるほど・・・豆によって味や特徴が違うんですね。その・・・初歩的な質問になるんですけど、ブレンドっていろんな種類の豆を合わせて作るんですよね?」


「そうですね。ブレンドは数種類の豆同士を配合して作るコーヒーのことを言います。一種類の豆を使って作る物をストレートやシングルと言われてますね。ブレンドはいいですよ!自分だけのコーヒーを作る事ができますし、色々な味が味わえます!自分もブレンドを試して見たんですけど中々納得の行く味にならないんですけど、作っている時はとても楽しいですよ。」


「それって、私でもできますか?」


「うーん、そうですねぇ・・・行程自体はさほど難しくないので問題は無いんですけど・・・」


「それなら!」


「問題は豆を用意することなんですよ」


「豆?」


「そうです。ブレンドをするならまず豆の特徴を理解して、色々な豆を用意して作るのが理想なんです。コーヒー豆は案外高いですし、それなりに量も必要になります。なので簡単にできると言ってしまうのもどうかと思って・・・」


「なるほどです・・・」


そうか・・・豆を買わなければいけないのか。でも私ならその問題なら簡単にクリアはできるかな。


「あ、でもそれさえクリアできれば問題は無いんです!ネットで調べればやり方自体は沢山出てくるので!」


私が少し考える様子を見せたからか、彼は必死にフォローの言葉を投げてきた。優しいな・・・


「あ!もうこんな時間!そろそろ帰らないと!すみません。こんなに長居しちゃって・・・」


「いえいえ全然大丈夫ですよ。ありがとうございました!ぜひまたご来店下さい。」


彼は笑顔でそう言って、深々と礼をした。本当に学校での彼の面影はない。

うーん、どうしようか・・・言ってもいいか!


「こちらこそ色々教えて貰ってありがとうね!」


私が急に敬語を外したからか、彼の顔は分かりやすく変わった。


「あ、あとこれからは授業中は寝ないようにしなよ!」


言葉を続ける


「つ・ば・さ君!」


私が顔の前に指を立てて、いたずらっぽく彼の名前を呼ぶと彼の顔は先程までの営業モードの爽やかスマイルでは無く、学校でのような一般的な男子高校生の顔になった。


「どうして、俺の名前を・・・ていうか授業中に寝ている事も・・・って、あ!同じクラスの!」


「あ!本当に遅くなっちゃう!つばさ君またね!学校でまた話そうね!」


彼に何かを言われる前に私は店を出ることにした。あの様子だと彼は本当に気づいて無かったようだ。まあ仕方ないと思う。


だって今の私は学校での姿とは違うのだから。

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