姫と一緒に一休み

羽根とき

第1話

私は初めて一人での喫茶店デビューをしようと、とある喫茶店の前に立っていた

その喫茶店の名前は「翼」

この喫茶店は私が高校に入学したころに見つけ、レビューなど色々調べ、喫茶店デビューはこのお店にしようと決めていたのである。

最初は人気のチェーン店も一通り試してみたが、美味しかったがどれも格別に美味しいとは感じられ無く通うことはやめてしまったため、コーヒーにこだわっているというこのお店を選ぶことにした。

お店に入ると、カランコロンとベルの音が鳴り、最初に目に入ったのは暗所のカウンター奥に並んでいるコーヒー豆だった。どれも丁寧に瓶詰めをされており、店内はコーヒーの良い匂いが漂っていた。

 

「いらっしゃいませ」


カウンター奥から若い男性の声が聞こえ、少し経ってからその声の主が現れた。

そして私は驚いた。なぜなら私はその声の主を知っていた。彼の名前は「白藤 翼」(しらふじ つばさ)

私のクラスメイトだった

彼がここでアルバイトをしていることは知らなかった。しかし彼の様子を見る限り彼は私の事に気づいていないようだった。


「お客様?どうかなさいましたか?」


私が驚き、言葉を失っていると彼は心配したように聞いてきた。


「いえ・・・なんでも無いです。一人なんですけど大丈夫ですか?」


「もちろん大丈夫ですよ。カウンターかテーブル、お好きなお席にどうぞ」


「それじゃあ・・・カウンターでお願いします」


「今は他にお客様は殆ど・・・というかだれもいないので、広めに使えるテーブルでも・・・」


「いえ、カウンターで」


「分かりました。カウンターですね。それではこちらへどうぞ」


私が念を押すようにそういったため、彼は少し微笑みながらそう言って私を席まで案内してくれた。

私がカウンターを要望したのは、私がカウンターでコーヒーを飲むということが夢だったからだ。このお店はコーヒーにこだわっているということもあり、カウンター席だったら目の前で豆を挽くところを見れるからだ。

私が席に座ると、彼はメニューを持ってきてくれた


「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたらお声がけ下さい。」


彼が渡してくれたメニューを見ながら、私は内心?だらけだった

まずこのお店で彼が働いているなんて思わなかった。なぜならこのお店は学校からも二駅程離れており、アルバイトをするにもわざわざこのお店を選ぶ理由が無いからだ。

さらに彼は学校ではさっきみたいに、丁寧な言葉を使うようなキャラでは無い。学校では仲間内で大声で話すやんちゃ者。授業中は寝ており、先生によく怒られている印象だ。今の彼は学校とのギャップで少し心臓に悪い。


メニュー表を見るとやっぱりこのお店は様々な種類のメニューがある。口コミ通りで安心した。

しかし沢山のメニューがあるがゆえに何を頼むのがいいか迷ってしまう。コーヒーは好きだけどそんなに詳しい訳でも無いのでブレンド名で言われてもよくわからない。

このまま悩んでいても進まないため、店員である彼におすすめを聞くことにした。


「すみません」


「はい!ご注文をお伺いします」


「すみません、このお店のおすすめってありますか?自分ブレンド名とかは疎いので良く分からなくて・・・」


「それなら、このWing ブレンドがおすすめですよ。当店の店名から取った自慢の一杯になっています。」


「じゃあそれをお願いします。あと、豆を挽くところ見ててもいいですか?」


「もちろん大丈夫ですよ」


彼はそういうと、カウンターの下からコーヒーミルを取り出し豆を入れた。

上にハンドルがついている手動のミルだった。

ガリガリと音をたてながら豆を挽いている彼の姿は学校の姿とはかけ離れており、とても大人びていた。


「コーヒーお好きなんですか?」


私が真剣に見ていたからか、はたまた見過ぎていたからか、彼がそう質問をしてきた。


「はい。でも恥ずかしいことにとても詳しいという訳でも無いんです。さっきも言った通りブレンドのこととかも良く分からないし、どんな豆があるかも分かってないです。チェーン店とか言っても大体ブラックとかそういう風にしか書いてないので・・・」


「まあ相当コーヒーがお好きじゃないと、そんなにマニアックなところまでは調べませんものね。私自身もこのお店でしっかり働き始めるまではコーヒーのことなんて分かってなかったので、詳しくないほうが当たり前だと思います。」


「店員さんはここでどのくらい働いているんですか?」


「私は二か月くらいですかね。実はそれよりも前から淹れる練習自体はしてたんですが、しっかり淹れれるようになったのは最近ですね。まだまだ修行中のみですが、実は昨日やっと一人でお客さんにコーヒーをお出しする事をマスターに許されたんですよ。なのでお客さんが自分に取っては初めて私のコーヒーを飲んで頂くお客さんなんです。」


彼はそんな小恥ずかしい事を笑顔で言ってきた。よくそんなことを言えるなとも思えたが、彼は顔が整っているためそんなセリフも恰好がついていた。やはり美形の人は羨ましい。


「それじゃあ私も心して頂こうかと思います!」


私たちがそんな会話をしていると、豆を挽き終わったようで今度はドリップの行程に入るようだった。

金属のフィルターに先程挽いたコーヒー粉を入れ、平らにならしていた。そして沸かしていたお湯を少し粉に注いだ。しかし少量入れた後はしばらくお湯を注ぐことはなく、彼はじっと待っていた。不思議に思っていたが彼は少しするとまたお湯を注ぐのを再開した。数回に分けてお湯を注ぐ光景を見ていたら、彼はドリッパーを持ち上げコップへコーヒーを淹れ、そのコップを私の前に差し出した。


「お待たせしました。Wing ブレンドになります。お客様はコーヒーがお好きなようなので、良ければコーヒーの特徴を説明しましょうか?」


「お願いします!そういうの沢山知りたいんです!」

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