第65話 議会や行政(二か月後の夏)
冒険者ギルドが開設され二ヶ月が過ぎた。
季節は、すっかり夏だ。
我がエトワール伯爵領は、新しい住人がドンドン増えている。
領主屋敷の執務室では、執事のセバスチャンが抱えていた書類をドサリと俺の執務机に置きながら笑顔で告げる。
「新たに獣人の一族が到着しました。狼族です。午後に面会の予定を入れました」
俺は執務を一休みして、執事のセバスチャンに答える。
「了解。ドンドン人が増えるね」
「良いことです! 税収もドンドン増えております!」
最初に我がエトワール伯爵領にやって来たダークエルフ。
彼らは王領の片隅でひっそりと暮らしていたのだが、国王の代官に追い出された。
同じようなことが、他の王領でも起きているかもしれないと俺は思い、各地に住む人族以外の種族にエトワール伯爵領で受け入れると冒険者ギルドを介してメッセージを送った。
すると続々と人族以外の種族がエトワール伯爵領に集まり始めたのだ。
最初は、シューさんのエルフ族。
彼らは王都の東に位置する王領の森の中に住んでいた。
森の中なんて、人族は住んでいないので放っておけば良いのに、国王の代官は立ち退きを命じたそうだ。
そこへシューさんからのメッセージが、冒険者ギルドを介して届いた。
エルフの族長は、苦渋の決断でエルフの里から我がエトワール伯爵領への移住を決めた。
エトワール伯爵領に到着したエルフ族は、領主屋敷の近くに住んでいる。
そしてシューさんの予告通り、エルフ族で一番胸の大きいシフォンさんという女性が俺の秘書として送り込まれた。
「ノエルさん。ちょっとお休みしましょう」
「そうですね。お茶にしよう」
シフォンさんは、エルフ族としては珍しく肉付きの良い女性だ。
見た目は二十歳くらいだが、長寿のエルフだけに真の年齢は不明。俺も年齢を聞かないだけの分別はあるので、謎のままにしておこう。
ふんわりとしたクリーミーな金髪に、柔和な笑顔。ナイスバディを秘書服に押し込んで、俺の仕事を手伝ってくれる。
仕事が出来るので、俺も執事のセバスチャンも大変助かっているのだ。
「では、お茶を淹れましょう」
執事のセバスチャンが、さっとお茶を淹れてくれる。
お茶をいただきながら、護衛として部屋にいるシューさんを見る。
シューさんは、だらしなくソファーに寝転がっているが、あれでも護衛をしていて何かあれば俊敏に反応するのだ。
俺も執事のセバスチャンもシフォンさんも、シューさんがだらけているように見えてちゃんと護衛をやっていることを知っているので咎めたりしない。
シューさんは、俺がダークエルフに肩入れしていると感じたらしく、エルフイチのナイスバディであるシフォンさんを送り込んできた張本人だ。
いったい、エルフとダークエルフは、どこで張り合っているのか。
乳のデカさで張り合ってどうするのだ!
とはいえ、エルフは性欲が非常に薄い種族らしい。
一族の長老によれば、子作りは子孫を残すための義務的な行いに過ぎないそうだ。
美男美女が多く長寿のエルフだが、この性質のおかげであまりエルフ族は人口が増えなかったらしい。
『ままならないものですね』
『そうだな。我がエルフは少数精鋭と開き直っている』
俺とエルフの長老は、面会した時にそんな会話を交した。
ちなみにエルフの長老はナイスシルバーな見た目の男性だ。
次々と移住希望者が訪れるのでさばくのが大変だ。
人族、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、引退した冒険者などなど……。
俺は執事のセバスチャンとシフォンさんに相談してみる。
「もうちょっと統治する体制を整えようと思う。議会を作ろうと考えている。どうかな?」
執事のセバスチャンとシフォンさんが顔を見合わせ、セバスチャンが俺に質問した。
「議会でございますか? どのような?」
「各種族の代表者が話し合う場だ。冒険者や商売をやっている者の代表者も入れて良いと思う。今は、みんな移住したばかりで様子を見ながら生活しているが、時間が経てばもめごとが増えるだろう」
「なるほど。もめごとを調停する場でございますね?」
「そう。あと種族間の利害調整するのにも役立つし、俺たち人族では、分からないこともあるだろう。各種族の代表者に意見や希望を出してもらった方が良い」
イメージとしては、日本の地方自治体の議会だ。市議会みたいな感じかな。
あくまで、エトワール伯爵領は俺の領地なので、議会に立法権は付与しないけれど、ある程度は自分たちでルールを決めてもらって良い。
そうしないと、俺の仕事が増えていく一方だ。
「かしこまりました。各種族や商売の代表者に声をかけましょう」
「頼む」
執事のセバスチャンが請け負ってくれた。
本音としては、早めに議会を発足させて仕事を手放したい。
俺は工房にこもって新商品を開発したいのだ。
俺は一枚の紙をぺらっとめくる。
マーマンとダークエルフが、漁を巡って殴り合い……知らんがな!
こういうのは議会に丸投げだ。
話し合いでも、水球でも、ビーチバレーでも、何でも良いから解決してくれ。
議会の次は行政だ。
行政とは、ここ領主屋敷の俺の執務室に他ならない。
人手が足りない。
「執務も人を増やしたい。誰か手伝ってくれる人は、いないかな?」
「目ぼしい人を、リストアップしてあります。この方たちを雇われてはいかがでしょう?」
秘書のシフォンさんが、スッと紙を差し出してきた。
十人の名前、種族、略歴が書いてある。
人族、エルフ、ダークエルフ、獣人からバランス良く選んであった。
「ほうほう。引退した冒険者で執務を手伝ってくれそうな人がいるんだ」
引退した冒険者も各地から次々と到着し宿屋や食堂で働いてもらっている。
イカツイ感じのオッサンが多い印象だが、執務が出来そうな人がいたのか!
「一人いらっしゃいました。魔法使いでご活躍されていましたが、ご年齢が上になり体力が衰えたので引退。上品な印象の女性でしたよ」
シフォンさんは、なかなか頼りになる。
俺はシフォンさんにリストアップした十人の雇用を認めると告げた。
扉がノックされて、ネコミミのメイドが入って来た。
メイドは猫族から雇い入れた少女だ。元気な声で俺に用件を告げた。
「ご領主様! ジロンド子爵からお荷物が届いています! これがお手紙です!」
残念なことに猫族は語尾に『ニャ』をつけない。
語尾に『ニャ』をつけるのは、ネコネコ騎士のみーちゃんだけで、猫族から見ても奇異な話し方らしい。
俺はネコミミメイドから手紙を受け取ると、すぐに手紙を読む。
かなり物騒なことが書いてあった。
執事のセバスチャンが手紙の内容について、俺に問う。
「ノエル様。ジロンド子爵は何と?」
「ジロンド子爵の領地で盗賊を捕らえた。尋問したら、俺を暗殺するように頼まれていたと白状した」
「なんですと!? では、刺客!?」
「そうだ。ついては首を送るそうだ。荷物が届いていると言っていたが……、ふう……、盗賊の首だろうな」
そんな物を送ってもらっても困るのだが、ジロンド子爵としては好意のつもりだろう。
顔を確認しておけということだ。
国王か……。
ある程度の対処が必要だな。
俺は執事のセバスチャンに命じた。
「ダークエルフのエクレールを呼んでくれ。仕事だ!」
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