第64話 審査結果 冒険者ギルド開設

「アミーさん!」


 俺は手を振りながら、アミーさんに駆け寄る。

 アミーさんの護衛を務める冒険者たちが、スッとさりげなく動いてアミーさんを守れるポジションを取った。


 すると、スルスルと滑るようにエルフのシューさんが俺の前に出て、クルクルと魔法の杖を回した。こちらも油断がない。


 一瞬で護衛対象をカバーする。

 護衛冒険者の名人芸を見せられ、俺はホゥっと息を吐いた。


 アミーさんが、すぐに護衛の冒険者を制する。


「大丈夫。こちらは、ご領主のエトワール伯爵です」


「「「「「失礼しました」」」」」」


 五人の冒険者が頭を下げ謝罪し、俺とアミーさんとの間を空ける。

 俺の護衛を務めるシューさんも緊張をゆるめ、スッと横にどく。


 五人の冒険者はなかなかの面構えで、使い込んだ革鎧からベテランの冒険者だとわかる。

 俺はアミーさんに話しかける体で、護衛の冒険者たちを褒めた。


「良い護衛ですね!」


「ありがとうございます。彼らは顔なじみの冒険者で、たまたま他の冒険者ギルドから移動してきたのです」


 へえ。どうりでみたことがない顔だ。

 お隣の冒険者ギルド――フォー辺境伯の領都デバラスの冒険者ギルドは、何度かお邪魔している。

 デバラスの冒険者たちは、騒々しくも肩の凝らない雰囲気なのだ。


 今回、アミーさんが護衛として連れている冒険者は違う雰囲気で、どっしりと落ち着いた印象を受ける。


 挨拶が終ったところで、領主屋敷に向かった。



 領主屋敷の応接室でアミーさんと向き合って座る。

 執事のセバスチャンが、お茶を淹れ、お茶請けにオレンジのドライフルーツが添えられた。


 お茶を一口、お茶請けを一つまみして、いよいよ本題だ。


「審査の結果をお伝えいたします。エトワール伯爵領に冒険者ギルドを開設する審査ですが……通りました! おめでとうございます!」


「やったー!」


 俺は両手を上げ飛び上がって喜んだ!

 これで領地の収入が増える!

 冒険者が来れば人口も増える!


「やったニャー!」

「お兄様! 良かったですね!」

「ノエル様! おめでとうございます!」

「ふう。これで楽が出来る」


 いつものメンバーが喜び、祝いの言葉を贈ってくれる。

 若干一名不穏なコメントをしているがスルーだ。

 エトワール伯爵領に余剰人員はない。

 シューさんにも働いてもらう。


「それで、審査についてですが、将来性とエトワール伯爵様のご提案が好評価されました」


 アミーさんが審査結果について、書類を広げながら詳しく説明してくれた。


 まず将来性!

 エトワール伯爵領は、南側に広大な魔の森を抱えている。。

 魔の森は手つかずの資源の宝庫であると、冒険者ギルド側の期待は非常に高いそうだ。


 さらに、冒険者による実地調査の結果も良好だった。

 エトワール伯爵領付近の魔の森は、ホーンラビットなど初心者冒険者でも倒せる魔物が出現する。

 少し足を伸ばすと、ブラッディベアーなど中級冒険者向きの魔物が出現するそうだ。


 後ろから書類を覗いていたエルフのシューさんが、ぼそっと言葉を発した。


「ふーん……獣系の魔物が多いね。販売額が高くなりそう」


「そうなの?」


「獣系は、食肉、毛皮、角、爪と売れる部位が多い」


「へー! そうなんだ! 割の良いオイシイ獲物ってこと?」


「そう。私もヒマな時は狩りに行く」


 我がエトワール伯爵領の周囲には、高く売れる魔物が多く生息しているということか……。

 俺は頭の中で魔物が背中に金貨を背負っている姿をイメージしてしまった。

 魔物は怖いが、お金になると思うと、また違った印象を持つ。


 アミーさんが、情報を補足する。


「そうですね。売却額の高い魔物が多く生息していたのもプラス評価でした。薬草も生えていますね。ただ、鉱石は今回の探索では見つかりませんでした」


「今後に期待ですね」


 石油が湧いているのだ。

 地下資源である鉱石も何かあるのではないだろうか?

 俺は魔の森の奥に期待を寄せた。


 ただ、わからないこともある。

 俺の提案が好評価された件だ。

 何か提案した記憶がないのだが……。


「アミーさん。私の提案というのは?」


「引退した冒険者を雇用する件です」


「それは、アミーさんのご提案では……?」


 引退した冒険者をエトワール伯爵領の宿屋で雇う。

 他にも働き口はいくらでも作れる。

 だが、この件を提案してくれたのはアミーさんだ。


「あっ! 手柄を譲ってくれたんですか!?」


「ふふ……。そんなところですね! それから、ギルド長は私が務めることになりました。ご領主様、よろしくお願いいたします」


 アミーさんが、ニッコリと笑った。


 やられたな。

 つまり俺はギルド長に借りを作ってしまったわけだ。

 初手からアミーさんのペースだ。


 だが、悪い気はしない。

 色っぽいお姉さんがギルド長なんて最高かよ!


 俺は元気に返事をした。


「こちらこそ! よろしくお願いします!」

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