第60話 目指すは、お魚パラダイス!

 夜になった。

 俺はエルフのシューさんに頼んで、コッソリと屋敷を抜け出した。

 暗い中、シューさんは魔法の杖の先を光らせて、俺を先導してくれる。


「ノエル。何をするの?」


「屋敷から海まで、土地の魔力を抜いておきます」


「なるほど。海を使えるようにする?」


「そうです。ダークエルフたちが海で活動しますからね」


 ダークエルフのエクレールが連れて来たダークエルフたちと交流をしたが、全員優秀な船乗りだった。

 エクレールの妹ショコラちゃんですら、帆を畳むなど船上の仕事は一通り出来ると聞いて驚いた。


 何でもダークエルフの里は海に面していて、若いダークエルフは船に乗って漁に出たり、素潜り漁をしたりするそうだ。

 年老いたダークエルフは、畑をやったり、岩場で漁をしたりする。

 暮らしぶりは漁村だ。


 ならば、俺の領地でも同じように暮らして欲しい。

 漁をして海産物をとってくれるなら非常に嬉しい!

 産業が増える、税収が増えるというのはもちろんだが、食材のバリエーションが増え、料理のレパートリーが増える。


 魚とか、貝とか、ウニとか……。

 俺の領地ではオリーブを生産しているので、オリーブオイルを使った魚介料理なんてどうだろう?

 前世日本のイタリア料理だな。


 それに海苔や昆布も欲しい!

 ひょっとしたら日本食を再現出来るかも!

 ああ……夢が広がる!


 その為には、ダークエルフたちが安心して暮らせる環境を準備しなくてはならない。


 すなわち領主屋敷のある開拓村から海岸までを、魔物の出ない安全地帯にしなくては!


 魔の森から魔力を引っこ抜けば、普通の土地に戻り魔物は寄りつかなくなる。

 ここから海まではかなりの距離があるが……。

 俺はお魚のためには、残業も辞さない食いしん坊……ゴホン! 働き者の領主なのだ!


 海の幸にかける俺の熱い思いをシューさんに語ると、シューさんは熱心にうなずいた。


「海の魚は美味しい。私も食べたい。海まで開拓することに賛成する」


「では、早速やりましょう!」


 俺は領主屋敷から海へと続く道に立ち、南側に生い茂る魔の森に手をかざした。

 生産スキルを発動する。


「スキル発動! 【マルチクラフト】!」


 生産スキルが、すぐ生成プロセスに入った。

 俺の左手から金色の光が渦を巻いて飛び出し、魔の森を飲み込む。

 金色の光の渦は魔の森から魔石生成に必要な魔力を抽出し、七色の光りが俺の右手から溢れた。


 拳大の魔石が右手に現れる。

 魔の森から吸収した魔力が結晶化した物だ。

 俺は魔石を地面に広げたマジックバッグに放り込み、次々と魔石を生成する。


「さあ、ドンドンいくよ!」


「お魚! お魚! ノエル! 頑張れ!」


 生産スキル【マルチクラフト】が、魔の森の地面、地中、空中から魔力をかき集め魔石を生成する。

 俺の右手から次々と魔石が生成され、マジックバッグに吸い込まれる。

 五分ほどすると、生産スキルが停止した。


 俺の様子を見て、エルフのシューさんが呆れる。


「相変わらず化け物じみている」


 俺は気にしないで、次の作業に移る。


「北側の斜面も処理します」


 こうして、街道沿いの魔の森を普通の森に変化させ、海岸も広範囲で魔力を抜いた。

 海底の魔力も抜いておいたので、海の魔物は近づかないだろう。

 大ダコを丸かぶりしていたシーサーペントさんには、ご遠慮いただきたいからね。


 作業が終る頃には、周囲が白んできた。

 もうすぐ夜明けだ。


 シューさんが、大きなあくびをした。

 俺も頑張ったが、シューさんも護衛を頑張ってくれた。


「眠い……」


「もうちょっと頑張って! 船を海岸に置いたら終了です!」


 俺は昼間工房で作ったスーパーヨット――海のF1と呼ばれるF50を、特製の大容量マジックバッグから取り出して海岸に置いた。


 一眠りしたら、ダークエルフのエクレールたちを案内しよう。

 きっと驚くぞ!

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