第46話 プラスチックの瓶
「ふう……やった……やりきったぞ!」
夕方になり領主屋敷が完成した。
レモンベージュの壁にオレンジ色の瓦屋根。
南側斜面に立つ南欧風の屋敷を見て、俺は満足感と達成感を大いに得た。
生産スキル【マルチクラフト】を使い、王都にあった屋敷の木材や石材を使って生成したのだ。
「お兄様! 凄いです! 私たちの屋敷が出来ましたわ!」
「凄いニャ! これで安心してお昼寝出来るニャ!」
妹のマリーとネコネコ騎士のみーちゃんが、手を握って喜ぶ。
まだ、外側だけなので、家具や魔導具などを明日から生成をしなければならない。
「とりあえずベッドは用意しておいたから、今日は広々寝られるよ」
「わーい!」
エルフのシューさんが喜んでいる。
キャンプ仕様の馬車だったとはいえ、野営が続いたからね。
自室で寝られるのは、気持ちが落ち着くだろう。
「さて、屋敷に入ろう!」
みんなを連れて屋敷に入る。
部屋は全室南向きの二階建てだ。
基礎工事をしてないので、二階建てが限界と判断したのだ。
その分、横長にして広さを確保した。
王都にあったエトワール伯爵家の屋敷に比べたら遥かに小さいが、それでも田舎貴族の屋敷としては上等だろう。
「ノエル様。この窓はガラスとは違うようですが?」
執事のセバスチャンが、窓を軽く叩きながら俺に質問した。
痛いところを突かれたな。
「ガラスは品切れだったから代用品を使った」
「代用品でございますか?」
「うん。その透明な板は、アクリル板というのだ」
王都にあったエトワール伯爵家の屋敷には、沢山の窓ガラスがあった。
だが、窓ガラスは俺が生産スキルで加工して『エトワールグラス』として全て売ってしまったのだ。
仕方がないので、手に入った石油からアクリル板を生成した。
アクリル板は透明度が高く、耐久性もある。
日本では水族館の水槽で使われていたくらいだ。
だが、欠点もある。
「アクリル板は、熱に弱い。太陽の光で熱せられると溶ける可能性がある」
「なるほど……。ここはかなり南でございますから、日差しが強うございます」
「そうなんだ。だからアクリル板で仮に窓を作った。ガラスが手に入ったら、ガラス窓に入れ替えるよ」
「かしこまりました。窓が溶けていないか、気をつけて見るようにいたします」
みんなが物珍しそうにアクリル板を触ったり、叩いたりしている。
すると妹のマリーが、アクリル板を触りながら俺の方を向いた。
「お兄様。このアク……リル……は、沢山作れますの?」
「スキルで生成するから大丈夫だよ」
「では、このアクリルで箱か壺を作って下さいませ! 透明な箱の中にドライフルーツを詰めたら素敵だわ!」
「あっ……なるほど!」
これは商品のパッケージデザインだ!
ドライフルーツといわれても、見たことも食べたこともない人にはピンとこないだろう。
だが、透明な容器に入っていれば、一目瞭然だ。
それに高級感も演出できる。
この世界では、商品のパッケージ、商品の包装、商品の見せ方という概念はない。
店先にドンと野菜や小麦を置いて、量り売りが普通なのだ。
貴族家に出入りする商人でも、化粧箱に入れたりしない。
ドライフルーツを、そのまま売るよりも、きれいな箱や壺に入っていた方が良い。
ドライフルーツが高く見えるだろう。
マリーの着眼点は凄い!
「マリーは凄いな! 商売のセンスがあるよ! これからも俺を助けておくれ」
「よろしくてよ! お兄様!」
「じゃあ、早速作ってみよう」
俺たちは、工房に移動した。
工房は屋敷とは別棟になっていて、俺が生産スキルを使って実験するために建てた。
木造一階建てだが、倉庫のように広く天井が高い。
床は頑丈な板張りになっていて、重量のある物体でも生成出来る。
俺は工房の床に石油の入ったマジックバレルを置いた。
そして生成する物体をしっかりとイメージする。
「発動! 生産スキル【マルチクラフト】!」
左手から黄金に輝く魔力が発せられ、マジックバレルから原油を吸収する。
生産スキルは、七色の光を発しながら、俺のイメージ通りの物を生成した。
右手に透明なプラスチック製の容器が現れた。
直径十センチ、高さ十センチの円筒形で、蓋は回すと開くスクリュー方式になっている。
プラスチック製の広口瓶だ。
「マリー。これでどうかな?」
「とても良いですわ!」
「ほら、ここを見て! マリーの名前を入れたよ!」
「まあ! 『マリーのドライフルーツ』とありますわ!」
瓶の側面には、『マリーのドライフルーツ』と、文字を入れた。
ちょっとしたブランドになれば儲けものだ。
妹のマリーは、大喜びでプラスチックの瓶にドライフルーツを詰めた。
夕日に照らされてキラキラと光るドライフルーツの入った瓶は、宝石を詰めたように見えた。
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