第45話 驚きの吸引力
「さて、セバスチャン。領主屋敷をあの南側斜面に作ろうと思う」
「日当たりは良さそうでございますね」
執事のセバスチャンは、俺の足下に転がる魔石をセッセとマジックバッグに収納しながら答えた。
開拓村の北側に低い山があり、低い山からなだらかに斜面が続いている。
この南側斜面に領主屋敷を作れば、海から村まで見晴らせるという寸法だ。
そして、南側斜面は日当たりが良いので、オレンジやプレッシュなどの果樹園を作りたい。
果樹園の間の道を上っていくと、領主屋敷がある。
南国の田舎風で、なかなか洒落ているじゃないか!
「ノエル様。水はいかがいたしますか? 開拓村から水を運ぶのは大変でございます」
「セバスチャン。水は魔導具を作ろうと思う。ほら、今、セバスチャンが片付けている魔石を素材にして作るよ」
「なるほど……。それでしたら異論はございません」
執事のセバスチャンはOKを出してくれた。
護衛の意見は、どうだろうか?
ネコネコ騎士のみーちゃんとエルフのシューさんに聞いてみよう。
「みーちゃんとシューさんは、どう思う? 護衛として意見が欲しい」
「良いと思うニャ。南向きは、日当たりが良くてお昼寝にぴったりニャ」
うーん、聞いてないぞ。
でも、なごむから良いか。
「高い場所は見晴らしが良いので警戒がしやすい。村から離れていた方が、余計な人が紛れないので、あの斜面に屋敷を建てるのは良いと思う」
なるほど。
不審人物が村人に紛れることを警戒しているのか。
現在の開拓村は人数が少ないが、今後人が増えたらシューさんがいうような警戒も必要だ。
先々のことまで考えていて頼もしい。
「マリーはどうかな? 高い場所だと海が見えるよ」
「海が見えるのですか?」
マリーが目をキラキラさせている。
「ああ。それからオレンジやプレッシュの木を植えようね」
「お兄様! とても素敵ですわ!」
むふー!
マリーに『とても素敵』をいただきました。
では、南側斜面に決定!
「しかし、ノエル様。この森は木が深く生い茂っております」
「うん。そこで、またもや俺のスキルの出番だ」
「あっ! まさか!」
「スキル発動! 【マルチクラフト】!」
俺は生産スキル【マルチクラフト】を発動させた。
左手から黄金の魔力がほとばしり、森の木々を包み吸収する。
右手から七色の光が溢れ、次々と木材のブロックが地面に転がった。
森の木々を材料に、木材ブロックを生成することで、森を伐採するのだ。
「よーし! 一気にやるぞ!」
俺はゆっくり歩きながら、左手を左右に振って森の木々を吸収し続ける。
掃除機が吸い込むように、スキルが森の木々を吸い込んでいく。
スキルの届く範囲は、二十メートルほどだが、歩いているとスキルが進化したのがわかった。
吸い込む範囲が広くなったのだ。
これまでスキルの届く範囲が二十メートルほどだったが、五十メートルに延びた!
これで効率アップだ!
俺は、徐々に急になる斜面を登りながら、後ろをチラリと見た。
みんながあんぐりと口を開けて驚いている。
再起動するまで時間がかかりそうだ。
気にしないで作業を続けよう。
およそ十五分作業を続けた。
魔の森の中にぽっかりと、穴が空いた状態だ。
森の木々は吸収され、木材ブロックがあちこちに転がっていて、再起動した執事のセバスチャンがマジックバッグに回収している。
俺が木々を吸収した場所は、木が一本もない。
あるのは草や石、そして所々にホーンラビットがぐてっと倒れている。
シューさんによれば、虫の息らしい。
俺が魔の森の魔力を吸収するのに巻き込まれ、体内の魔力をゴッソリもっていかれたのだろう。
魔力を奪われた魔物は、動けなくなるんだね。
なんか悪いことをしたな……。
魔物とはいえ、ウサギ型の魔物ホーンラビットが死にそうなのは、少々心が痛む。
シューさんは、倒れているホーンラビットにナイフで止めを刺して、マジックバッグに回収する役を引き受けてくれてた。
サクサクと作業して一通り回収が終ると、俺のところへ戻ってきた。
「ノエル。この魔石を見て」
シューさんが差し出した魔石を、俺は受け取った。
ホーンラビットの体内にあった魔石だと、シューさんは言う
魔石だが、半透明の灰色で魔石独特の輝きがない。
「魔力が全て抜けてしまっている」
魔石は様々な使い方がある。
魔導具を作る際のコア。
魔導具を動かす際の魔力源――乾電池のような使い方。
魔法使いが魔石から魔力を得る――魔力ポーションのような使い方。
主にこの三つの使い方が一般的だ。
「シューさん。空になった魔石に使い道はあるのですか?」
「ない。空の魔石に、魔法使いが魔力を補充することは可能だけど、あまりやらない」
俺が馬型ゴーレムに魔力を補充する方法と同じだろう。
魔導具を動かすために魔力を補充するのだ。
「なぜ、やらないのですか? 魔導具を動かすのに魔力は必要でしょう?」
「魔法使いは戦闘に備えるのも仕事。魔力を無駄に使うのは良くない。それなら倒した魔物の魔石を使えば良い」
それもそうか。
俺は納得したが、別の疑問が湧いてきた。
「では、この空の魔石は価値がない?」
「ない。このホーンラビットを冒険者ギルドへ持ち込めば買い取ってもらえる。ホーンラビットは、肉、毛皮、魔石が買取対象。魔石が空の分だけ値が下がる」
「うーん……」
これはちょっと気をつけなければならないぞ。
魔の森から魔力を吸収して魔石を生成する。
俺は生成した魔石を、冒険者ギルドや商人に売却すれば良い。
ホーンラビットの魔石が空になったとしても、生成した魔石に魔力が移っただけなので、プラスマイナスゼロ。
むしろ作業の過程でホーンラビットの肉や毛皮が手に入るのだから、プラスになっている。
だが、魔物を狩って日々の生活の糧を得ている冒険者にしてみれば、たまったものではないだろう。
魔の森、つまり狩り場がなくなってしまうし、落ちているのは魔力が空っぽの魔物なのだ。
シューさんと話し合うと、シューさんも俺と同じ懸念を抱いていた。
「この辺りは冒険者がいないけど、フォー辺境伯領の近くは気をつけなければ……」
「ノエル。冒険者にとっては、死活問題。魔の森を拡張する場所は気をつけないと、絶対にもめる」
「わかった。気をつける」
「ところで私の部屋も用意してね」
「もちろんですよ!」
俺は気を取り直して、どんな家を建てるかを仲間と相談した。
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