第47話 快速馬車
――五日後。
エトワール伯爵家の領主屋敷が建って、各々仕事に励みだした。
妹のマリーは、新設した作業場でドライフルーツ作りを領民に教えた。
女性、子供、お年寄りが参加し、力がない者が空いた時間で出来ると好評だ。
領民としては、自分たちが食べて余った果物をドライフルーツに加工するだけだ。
余り物にちょっと手をかけたら収入が得られる。
なかなか良い商売になると目がキラーンと光ったそうだ。
領民たちからの希望は、ドライフルーツと肉・小麦の交換だ。
領民が作ったドライフルーツをエトワール伯爵家に納品する。
エトワール伯爵家は、ドライフルーツをプラスチックの瓶に入れてきれいなパッケージにして商人に売却する。
売却したお金で、肉や小麦を買って領民たちに配る。
「領民たちが、エトワール伯爵家の下請けに入る形態だな」
「左様でございます」
俺は屋敷の執務室で、執事のセバスチャンと打ち合わせ中だ。
俺の護衛にはシューさんが付いている。
ネコネコ騎士のみーちゃんは、妹のマリーの護衛をお願いしている。
マリーは、ドライフルーツを毎日セッセと作っている。
果物が傷む前にドライフルーツに加工するそうだ。
納税してもらった果物が沢山あるので、領民にもドライフルーツ作りを手伝ってもらっているそうだ。
給料代わりに、肉と小麦を渡している。
領民は大喜びしているそうだ。
「領民に、どれくらい払うかを慎重に検討しないと赤字になるな……」
下請けの領民に沢山払えば、領民が喜んでくれる。
だが、エトワール伯爵家が赤字になっては意味がない。
かといって下請けの領民からドライフルーツを買い叩きすぎれば、領民が不満をためるし、開拓村がいつまでも豊かにならない。
俺は自分の立ち位置が、日本企業でいうメーカーに近いのだと認識した。
前世日本で会社員をしていたが、下請けを使った経験などない。
なかなか難しそうだ。
「帳簿をつけてみました。ご参考になるかと」
執事のセバスチャンが、一枚の紙を提出した。
日付、名前、納品したドライフルーツの種類と量が書かれている。
これは助かる!
この帳簿があれば、納品した分量にあわせて、適切に賃金を支払える。
「セバスチャン。助かるよ。ありがとう」
「いえ。私など大した仕事はしておりません。マリー様のご活躍です」
「そうだな。マリーも労うとしよう」
ちょうどマリーが執務室に入ってきた。
俺はマリーの働きを大いに褒めた。
「お兄様。ありがとう存じます。全ての果物をドライフルーツにしましたわ。そろそろ売りに行きませんか?」
「そうだな。隣町へ行こう」
フォー辺境伯の領都デバラスまで五時間ほどかかる。
今の時間は午前十時。
これから出発すれば、午後三時ごろ到着する。
夕方から夜にかけて商談が出来るだろう。
俺たちはゴーレム馬車に乗って、デバラスの町へ向かった。
「ニャニャ!? 馬車の乗り心地が良くなっているニャ!?」
みんなが馬車の乗り心地が良くなって驚いている。
手に入れた石油を使って、タイヤをゴムタイヤに変更したのだ。
風魔法を使った空気を入れる魔導具を作り、ゴムチューブを作り、鉄でホイールを作り、タイヤの外側を作り、やっと完成したのだ。
ゴムチューブの入ったタイヤは、衝撃をゴムチューブが吸収するので、以前よりも乗り心地がアップしている。
もちろん道路自体がデコボコしているので、デコボコした場所では揺れが発生するが、平坦な場所ではほとんど揺れがない。
非常に快適な乗り心地なのだ。
俺は工房を得たことで、人の視線を気にせず生産スキルを行使できるようになった。
作業効率が爆上がりし、このタイヤが完成した。
たかがタイヤ、されどタイヤ。
これからも乗り物の研究開発は怠らないのだ。
ゴーレム馬車は、タイヤを装備したことで移動速度も上がった。
俺たちが予想していたよりも早くデバラスの町へ到着した。
まだ、太陽は真上……お昼に到着してしまった!
御者を務めた執事のセバスチャンが、満面の笑顔で俺に告げた。
「ノエル様。この馬車は非常に快速です! デバラスの町まで、五時間かかるところを、二時間半で走り抜けました」
「快速馬車として売れそうだな!」
美しいパッケージになったドライフルーツ。
快速馬車。
魅力的な商材を抱えて、俺は意気揚々とフォー辺境伯の屋敷を訪ねた。
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