第25話 ダークエルフ
「マスクブレイク!」
エルフのシューさんが呪文を唱えると、杖の先から白い光が波のように広がり、縛られ横たわる男の子を包んだ。
「「「「「あっ!」」」」」
シューさんの魔法の光が消えると男の子は消え、代わりに成人女性が縛られた姿で横たわっていた。
シューさんがボソリとつぶやく。
「やはり、ダークエルフ」
「ぐっ……ロープが食い込む! ほどいてくれ!」
シューさんが、ダークエルフと呼んだ女性は、男の子の姿から成人女性の姿に変わったのだ。
それは、もう、ロープが食い込んでとんでもないことになっている。
俺の視線は、ロープがギリギリと食い込む胸や尻に釘付けになった。
それはもう立派な……。
ダークエルフは、素晴らしいと思いました。
ジロンド子爵が剣を突き付け、シューさんが杖を構える中で、みーちゃんがダークエルフの縄を縛り直した。
「ふう……。やっとまともに息が出来る!」
ダークエルフは、地面にあぐらをかいて座った。
顔がハッキリと見える。
ダークエルフ……といっても、肌の色は小麦色でいうほどダークじゃない。
顔立ちは派手で、コロンビア美女みたいな感じ。
服装は革製のパンツとシャツで、ヘビメタバンドっぽい雰囲気だ。
ダークブロンドの長い髪、豊かな胸、大きなお尻。
エルフのシューさんとは真逆だ。
チラリとシューさんを見たら、殺気のこもった視線を俺に飛ばしてきた。
俺、何も言ってないのに……。
誤魔化さなくてはと、俺は疑問を口にした。
「あの……ダークエルフというのは?」
エルフはわかる。
王都でも見かけたことがある。
人族とは違う種族だが、一緒に町で生活しているので、馴染みのある種族だ。
だが、ダークエルフは初めてお目にかかった。
俺の質問にシューさんが答えてくれた。
「ダークエルフは、エルフの一支族。闇魔法のスキルを持つ」
「闇魔法?」
シューさんの説明によれば、闇魔法は人を惑わせる魔法が多いそうだ。
闇魔法の中には、自分の外見を変化させる魔法もあるという。
「じゃあ、このダークエルフの女性が、闇魔法で男の子に化けていた?」
俺は男の子がダークエルフになるところを見ていたが、信じられない思いだった。
先ほどの男の子は五才程度で、今目の前に座っているダークエルフはどうみても成人の『ありがとうナイスバディ!』の女性だ。
シューさんが、俺の質問に真面目に答える。
「闇魔法には、形態変化の魔法がある。私が聖属性魔法で形態変化を無効化した。ノエルは目の前で見ていた」
「いや、そうなんですが、どうにも信じられないというか、受け入れられなくて……」
俺が戸惑っていると、執事のセバスチャンがシューさんに疑問をぶつけた。
「シュー様。では、盗賊の襲撃もこのダークエルフの仕業でしょうか? 捕らえた盗賊は、新入りが私たちを狙えとそそのかしたと言っていました」
「セバスチャンの推測通りだと思う。こんな見た目だが、闇魔法を使えば汚い盗賊に化けるなど造作もない」
「闇魔法とは、凄まじいのですね……。では、毒は?」
シューさんは、落ちているナイフを拾い上げ臭いを嗅いだ。
「このナイフの刃についているのは同じ毒。ポイズントードの毒」
「では、決まりですね! このダークエルフには、ジロンド子爵様の裁きが下るでしょう」
執事のセバスチャンは、怒りのこもった目をダークエルフに向けた。
無理もない。
食事の支度はセバスチャンが行っている。
毒を混ぜられ、自分の仕事を汚され、セバスチャンを含めて殺されかけたのだ。
ネコネコ騎士のみーちゃんも、セバスチャンと同じ『ヤレ』という空気を醸し出している。
妹のマリーは、怖々といった様子だ。
俺としても助ける理由がない。
事情聴取をして背後関係を聞き取れたら、ジロンド子爵に預けて処分してもらった方が良いだろう。
俺はジロンド子爵を見てコクリとうなずいた。
ジロンド子爵が、ぐるりと面々を見回す。
「満場一致かな? では、このダークエルフは、俺が預かって領都で縛り首にしよう」
「ちょっと待つ」
ジロンド子爵がダークエルフの扱いを宣告したが、エルフのシューさんが異議を唱えた。
何だろう?
「このダークエルフを殺すのは惜しい」
「どういうことだ?」
ジロンド子爵が、少し厳しめの口調で聞き返した。
ジロンド子爵は、このあたりの領主だ。
重罪を犯したダークエルフの扱いを変えることに反対なのだろう。
シューさんは、ジロンド子爵の様子を見ても表情を変えず理由を説明しだした。
「このダークエルフは暗殺者としては二流だが、形態変化の腕は一流。この体から男の子に変化するのは、なかなか難しい」
ダークエルフは、俺たちの暗殺を三回失敗した。
シューさんの評価『暗殺者としては二流』は、その通りなのだろう。
なかなか辛口な評価だが、一方『形態変化は一流』と高く評価している。
魔法スキルでも、ナイスバディから男の子になるのは難しいのか……。
俺はそういうモノなんだなと、ふんふんとうなずいた。
ジロンド子爵が、厳しい視線をシューさんに送る。
「手駒にしたいってことか?」
「そう。ノエルが言ってた」
「えっ!? 俺!?」
言ってないけど!?
ジロンド子爵の厳しい目が、俺に向く。
「エトワール伯爵。本当か?」
「いや――」
否定しようとしたが、シューさんが俺をジッと見ている。
何か言いたそうだ。
俺は落ち着いて考えてみた。
シューさんは、俺に『ダークエルフを手駒にしろ』と薦めているのか?
だとしたら……、手駒にするメリットがあるはずだ。
ふむ……。
まず、一連の襲撃について背後関係がわかる。
俺は間違いなく国王と宰相が糸を引いていると思っているが、ダークエルフを手駒にすれば証言が得られる。
貴族でないダークエルフの証言価値は低いが、それでも背後関係がハッキリするのは先々何らかの利益になるかもしれない。
それと闇魔法……、形態変化か……。
王都に潜入させて情報を集めさせるとか、父上暗殺の証拠を探させるとか、スパイ的な使い方で重宝しそうではある。
今、俺の仲間は少ない。
俺、妹のマリー、執事のセバスチャン、ネコネコ騎士のみーちゃん、エルフのシューさん。
五人だけだ。
系統の違う能力を持つダークエルフを加えるのは、悪くない選択肢に思える。
だが、ダークエルフは、仲間になってくれるだろうか?
果たしてダークエルフに信頼を置けるか? この点が不安だ。
「エトワール伯爵? どうした?」
俺が悩んでいるとジロンド子爵が、どうするか尋ねてきた。
悩ましいが……仲間に出来るか試してみよう。
俺はジロンド子爵に返事をした。
「可能であれば、仲間に加えたいです」
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