第15話 お店のPOP
ヘアサロンでの出来事でしばらく「うつうつ」してたけど、怒涛のバレンタインデー、前日と当日はフリフリピンクのドレス――黒歴史に刻まれたからあまり触れたくない……でも気が紛れたからま、いいか――が過ぎ、三月までのしばらくの閑散期。ま、これは例年通りだけどね。
だからといって三月まで待ってるわけにはいかないし、いちいち店長会議なんて開いてられない――ここは中央店だけで攻めに出るか。二月中旬から早めに《桜》デザインを多めに。
なので店独自のPOPとか、考えなきゃ。広告宣伝費もあんまりかけたくないし。
今時は新規のお客様の七〜八割はネットで集客してるけど、チリペッパービューティーに掲載している広告は、一店舗あたり一、二秒も見ないと本社システム部から分析が上がっている。
しかも掲載してる文章もあまり見ず、まずデザイン写真でこれ!と思った店を見るらしい。
だったらチリペッパービューティーのお店のブログ掲載を増やせばいいんじゃない? と考えたけど、掲載を増やすと今の料金体系じゃ宣伝広告費が上がるから、なにかいい広告媒体がないかGGRで検索、検索っと。
へえ〜POPって『Point Of Purchase』の略なんだ……あ、あった。
無料アカウントで利用できるGGRマイビジネスで店舗を登録して、写真をアップすればいいみたい……これいいんじゃない?
あ、『ユーザーは店舗の最新情報がわかると興味や関心を寄せやすくなるので、店舗へ来店する可能性が高まります』ともあるね……。
最新情報……なら一日一件、デザイン写真――これはサーバー共有フォルダのデザイン写真を持ってくればいいし――と値段、ちょこっと特徴を書いて毎日アップすれば作業時間なんてそんなにかからないし、最新情報が更新されればPV増加イコールお店の広告になるな……。
うん、これ今日からでもやってみるか……なんかポイポイポイって出来そうだし、これは店長の仕事っと。
あとは店頭のPOPとかポスターがいるよね……。
でもうちみたいな五店舗しかないところは業者に頼んだら高くなるしなぁ。
店頭、店頭……あ、そういえばコーヒーチェーン店のスタベとかでよく描かれてる黒板POP――って言うの? あ、ほんとに黒板POPって言うんだ――を真似てみるのも手かもね……だからといって幼稚園のお絵描きじゃダメだし、折り紙なんてつけたら最悪ぅ〜
黒板POPなら黒板の看板とカラーチョークだけで済む……けど問題は描き手だな……わたしは絵心ない画伯だからだめだし。
たしかバイトのユリちゃんかユユちゃん(二川ユユ)が絵を描くのが好きで上手かったって聞いた気が……出勤してきたら聞いてみよう。
*** 黒板アート***
午後から出勤してきたユリちゃんに試しに聞いてみた。
「ユリちゃんて、絵得意?」
「え〜、あんまり得意じゃないですねぇ……っていうか〜画伯? みたいな〜」
「そっかぁ……わたしとおんなじだね~」
するとユユちゃんか……シフトは明日の午前だから明日だな。
翌朝、出勤したユユちゃんに聞いてみる。
「ユユちゃんて、絵描くの得意?」
「ええ、まぁ……割と好きですよ」
「じゃ、チョーク使って……えーっとなんて言うんだっけ?」
「あ、黒板アートですね。高校のとき、卒業生にクラスのみんなで描いたりしたことありますねぇ」
ビンゴ!
「実は……」
「おお〜いいじゃん、いいじゃん」
「わぁ〜すごい、これユユちゃん描いたの?」とチーフ。
ユユちゃんが恥ずかしげに「え、ええ……どうです?」
「うんうん、他のお店だと、ただメニュー表だけみたいなんだけど、指先のネイルがキレイな桜デザインで描いてあって目を引くねぇ」
「そうですね! これ店頭に置くんですよね! ね、ユユちゃん、店長にバイト代上げてもらわなきゃね! ……って店長聞いてます?」
「え、あ、ああ……ぜ、善処します……」
「なにそれ〜!」
「わ、わたし、店長に『好きに描いていいよ〜』って言われて描いただけですんで……別にいいです〜」
「ダメ! 絶対あげてもらうべき! これは労働の対価だし、第一クリエイターへのリスペクトがない!」
「わ、わかったから……!」
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