第14話 ヘアサロンでのサービス

*** ヘアサロンでのサービス *** 

  

 カネコ社長とムツミさんが話し合い、ヘアサロンでネイルサービスをするのは当面は週一で、ということに決まった。 

 カネコさんのヘアサロン――ビューティーNAO――は月曜、木曜が割とお客様が少なく、火曜日は定休日。うちのお店は火曜、木曜が割と少ない……。というわけで木曜日にサービス(施術)をする。 

 毎週木曜日にわたしがカネコさんのお店に行くんだけど、予約が入ってない日は中央店にいることになる。 

 そんな水曜の午後、明日十一時に一名予約が入ったと、ムツミさん経由で社内chat連絡があった。 

 お客様はお得意様で、『行きつけのサロンでTS娘がネイルサービスしてくれるの〜?』と、一番最初に予約を入れてくれたらしい。 

  

「チーフ、今日閉店後に女子るから手伝ってくれない?」 

「はい? いいですけど、カネコ社長のところは明日でしたよね?」 

「うん、一番最初のお客様でお得意様と伺ったんで、今日から肌のコンディションとか整えておきたいし……明日は定番で行こうかと」 

「あ〜、ほぼすっぴんのJKですね~」 

「ま、まぁそんなとこ……任せたよ〜 あとは今夜は保湿して早めに寝てお肌の調子、整えなきゃ」 

「……店長、ほんっと女の子っぽくなってきましたねぇ〜」 

  

「ち、ちがう……これはお客様のためであって……」 

「はいはい、わかりました~ すっぴん風メイクとヘアセットは明日の朝にしますね」 

  

*** ヘアサロンのお客様 *** 

  

 翌朝、チーフにメイクとヘアセットをしてもらう。 

 コーデは定番の紺ブレ、ブラウスに赤のリボン、ピンクと茶色系のチェックのプリーツスカート。 

 スカート丈は四十五センチ……短い? 少しくらいパンツ見えてもいいじゃん。黒ハイソ、赤茶色のペニーローファーに、もちろん大きい黒リボンで高めのポニテ……いわばわたしの正装だ。え? それってただのJKじゃないかって? 

 いいじゃん、好きなんだから〜 

  

 キャメル色のショート丈ピーコートを着て、カネコさんのお店へ向かう。 

  

「おはようございます! お世話になります、ネイルサロンTSの中島です。今日はよろしくお願いいたします」 

「しのぶちゃん、いらっしゃい。こちらこそ今日はよろしくね」とカネコ社長。 

「いらっしゃいませ」ヘアスタイリストさんたちも挨拶して下さる。 

「お客様、もうしばらくしたらいらっしゃるんで……お名前は秋山さん。フレンチでお願いって言ってたかな?」 

「フレンチ、定番で人気ありますからね。わたし、フレンチ得意なんですよ! 細めでも太めでも、お好みお聞きして決めますね。任せてください!」 

「頼もしい〜良かった……」 

  

 ♪〜♪〜♪ 

 ドアベルが鳴り、秋山様と思しき方が来店。 

  

「あ、いらっしゃい秋山さん」とカネコ社長。 

「おはよう〜、きょうはネイルお願いね!」 

「あ、秋山さん、こちら、ネイリストのTS娘、中島しのぶさん」 

「はじめまして。わたし、なか」 

「え……ユ、ユイ?……じゃ……ない……わね……」 

  

  

 デザインオーダーをわたしに伝えてからは、秋山様は黙ったままだった……。 

  

「ごめんなさい……。しのぶさんでしたっけ? だいぶ前に死んだ娘に……」サービス受けながらぽつりと言う……。 

  

  

 サービスをしていくうちに、どうやらわたしが数年前に亡くなった娘さんに『なにか』が似てるらしいと伺った。 

  

  

「目の色も髪も背格好も全然違うけど……。なんていうの? 雰囲気……ちがう……なにか……」 

  

「でもわたし……TS娘で男ですよ……」 

  

  

「……それって……男も女も変わらないんじゃないかな……?」と秋山様。 

  

  

 わたしは黙ってフレンチを描いていく……つもりだったけど……。 

  

  

「そう……かもしれませんね……」 

  

  

 サービスが終わった秋山さん「今日はほんとうにありがとう……」 

「こちらこそご指名いただき、ありがとうございました」深々とお辞儀をする。 

「じゃ、しのぶさんまたよろしくね、また話し聞いて……くれる?」 

「はい……わたしでよければ……」 

「じゃ、カネコさん、また……」秋山様、お会計を済ませてお帰りになった。 

  

「……しのぶちゃん?」 

「わたしTS娘で良かった?……もし本当の女の子だったら……」 

 カネコさんは何も言わずうなずいてくれた…… 

  

 その日は秋山さんのサービスだけで終わりだったけど、しばらくカネコさんのお店にいたくて飛び込みの新規のお客様1名にサービスして店には寄らず帰宅した……。 

  

 喜んでくれたのが嬉しかった……けど、哀しかった……。 

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