第11話 終わり、そして始まり

 突如足を撃ち抜かれる。傷を見るまでは気づかなかったが、見た瞬間激痛が走り、立っていることすらままならなくなる。


「暗殺者たるもの、ありとあらゆる可能性に気を配れ」

「例えば、とかな」


 そうだった。地下空間ではあまりに外の光が入らないから忘れていたが、この戦いを始めた時点ですでにかなり夜になって経っていた。自分はあまり動けない中、相手は最強の武器を取り戻して。

 また銃が向けられる。もし自分が相手ならどこを狙う...?今動かない足か、それとも勝ちのために体を狙うか。そんなことを考え集中していても完全に避けることはできず、また足に1発もらってしまった。


 圧倒的実力差を前にして何もできない現状。ただ、そんな自分ではいたくない。また足に鞭打って、接近戦を仕掛ける。少なくとも遠距離戦では相手の拳銃で分が悪すぎる。相手に攻撃をさせないように全力で前に出る。


「この状況でも前に出る、それは高評価だ」

「だがまだ防御が甘い」


 足にナイフが振り下ろされ、刺さる。すでに痛い状況であっても、改めて刺された瞬間特有の痛みを感じ、一瞬顔をしかめる。この際足はくれてやる。

 そのまま動きづらい相手にパンチを狙う。顔にしっかりヒットして、よろけたところを見逃さず、足に刺さったナイフを抜いて二刀流で詰める。

 すでに足からはとんでもない量血が出ている、


「これ以上長引かせるのは危険だな。」

 全力でナイフを振って、何発も受けられて、でもじわじわ削って。


 だがやはり、状況が悪すぎた。突如足に力が入らなくなり、前に倒れる。

 動け、動け!

 そう念じても足は動かず、そのまま意識も途切れた。




 目が覚めた時にいたのは、小さいころから何度も見ていた医務室。あの頃からリーダーにしごかれて何度も治療に来ていたものだ。


「あ、目が覚めましたか、とりあえず生きてて何よりです」

「ただ足はしばらくは動かせないと思ってください、絶対安静です」


 そんな話をしているときに、リーダーが現れた。


「とりあえず、お疲れ様だった、でいいのかな」

「リーダー、俺は...」

「うむ、確かにお前は私に負けた。一般的な世界ではすでになかなかの実力だが、ここではまだまだ子供だな」

「うっ...」

「だから、おそらく俺はまだここで...」

「いや。」


「お前に、一時的な破門を言い渡す」


「...そう、ですよね。」

 正直リーダーに甘えていた部分は多々ある。それに自分に甘えていたところも。今回間違った選択をしたのだって自分なわけで、それにすら責任をとれない自分なわけだ。


「だが。」

「これはあくまでお前に外の世界を見てこい、という命令でもある」

「だからしばらく旅にでも行ってこい」

 そうして渡されたのはかなりの硬貨の入った袋。簡単な生活なら1年は平気で生きていけるようなとんでもない額だ。硬貨だけじゃなくて愛の重さも感じ、涙がこぼれる。

「とはいえ、これは俺に文句を言った分と俺を中途半端に切りつけた分も入っている!」

 はっはっはなんて笑いながら足を叩くリーダー。とてつもなく痛いのでやめてほしいがとてもこの状況で言えたもんではない。すぐにドクターストップが入ったが。


「正直、さっきはあんなことを言ったがお前はすでにかなり強い。」

「いろいろなものを見て、今度は俺を本気で殺しに来い」

「はい!」

「うん、いい目をしている」

 それは10年前あのころから何も変わっていない関係の証明でもあった。




 足が治るまで数か月、さらに怪我をする前と同じくらいに戻るまでで数か月、あっという間に半年ほど経ったころ。

 朝早く、町を出るところにある門。魔物を狩る際に通ったりするいつもの場所だが、今日は全く違う。


「それじゃ、行ってきます」

「おう、死ぬんじゃねぇぞ」


 そうして外へ歩き出す。同じ道でも時間や気持ちで見える景色は全く変わるもので、朝焼けがやけにまぶしく見えて綺麗だった。

 ...リーダーの小言が多くなければ完ぺきだったのだが。


「定期的に手紙は書くんだぞ~!」

「健康には気を付けて3食食うんだぞ~!」

「余計な戦闘は避けろよ~!」


 とはいえ、やっぱりなんやかんやで母親みたいで、そして俺よりよっぽど強いリーダーが大好きだ。とりあえず次に目指すとしたら港町アクエリアだろうか。

 ここからさらにいろいろなものが動き出す旅が、始まった。


 <一章 完>

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異世界転移トップ級暗殺者は知らず知らずで世界を変える なし @NashiSan

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