第9話 偽物の確証
弾の軌道が曲がる。それはきっと向こうも見ていたはずだ。だがこれに希望を見出す。
もう一発撃って、今度はイメージで、曲げる!
「おっとぉ」
その弾は突如90度ほど曲がって向こうの顔に向かって飛んでいく。それはぎりぎりで避けられたが、これをうまく使わないと勝てないのは確かっぽさそうだ。
そもそもそれ以前に、相手が弾をすり抜ける理屈を見つけないといけない。ほとんど想像はつくが、確信がない以上反撃を闇雲にできない状況だ。
とりあえず、その想像が正しいかどうかを確かめるためにいくつか試してみる。
まず思い切り距離を詰めて、相手の想定外を狙って見えにくい位置からナイフで横薙ぎ。その結果、情報屋の後ろに像が2回見え、2つ小さい切り傷がつく。
そのまま追撃で頭を狙う。これは無理やり頭を落とされて避けられる。
さらに無理な体勢のまま横に蹴りを入れる。しかしすり抜けられた。
予想通りだ。こいつのスキルはおそらく「一瞬の短距離瞬間移動」。理屈としては、攻撃を受けた瞬間、おそらく痛覚だろう―に反応してわずかな距離瞬間的に移動する、そしてさらにわずかな時間の後元の位置に戻る。
こうすることで飛び道具が当たらない位置に回避して元の位置に戻る、疑似的なすり抜けが完成するってわけだ。
そこまでわかってしまえば物事は単純だ。火で壁を作って逃げ道をふさぎつつ、ナイフで攻撃する。相手は躱してこそいるが、だいぶ動きが鈍いな。
明確に攻守が逆転したのを感じつつ、改めて襟を掴み、魔法拳銃を向ける。
しかし、また気づいたら手から離れている。いちいち厄介だな、この能力。
「だーかーらー!敵意はないんだってばぁ!」
「そうは言ったって、これ以上くだらない話が広がるのも面倒だし、な!」
光魔法を乱発する情報屋と、それを避けつつ攻撃しようとする俺。傍から見たらガキの喧嘩みたいな様子になっているだろうか。
実際このままじゃ埒が明かない。
今度こそ決める。4発ほぼ同時に撃ち込んで、そのうち二つを左右に曲げる。そして逃げ道を失った情報屋に、やっと命中した。
「ギブギブ、君のことは口外しないよ」
「そんなこと言われたって信頼できないが」
雷弾が命中して少しふらふらしている情報屋に詰める。
「情報屋って信頼がないと成り立たないから...ってことにならない?」
正直疑りすぎたところはあるので、少し反省して。
「とはいえ、どこまで情報をつかんててどこまで口外する気かは聞くからな?」
「は~い」
情報屋はいかにも嫌そうに答えた。
とりあえずギルドの重大な秘密とかを持ってるわけではなさそうだし、今回の戦闘で得た事実も口外しないと約束させた。そんな感じでなんとか円満に解決した...はずだ。もともと先に手を出したのはこちらなので、そこは謝っておいたが。
「そうだ。君、今不老不死について調べてるでしょ」
「でもあれは、やめたほうがいいよ」
「君も神の使い、ドラゴンから聞いたかもしれないけど」
「あそこには本物の神がいる」
「いや、君ならもしかしたら神も越えちゃうかも、じゃあね」
そうして情報屋は去っていった。そのすばしっこさとスキルの使い方、そして俺と違って自衛のためだけに鍛えられたであろう魔法や技術のコントロール。
技術の方向性こそ違えど、総合的なうまさでは向こうが明らかに上だ。そんな劣等感のようなものを感じながら、オレンジになり始めの空の下、ギルドへ改めて戻るのだった。
その日から、今までより運動量を増やし、魔法の練習を増やし、睡眠時間は削り、強くなるために。あいつより、強くなるために。誰にも、負けないために。自分の存在を、認めてもらうために。
もっと弾を速く。もっと魔法をうまく。もっと頭の回転を速く。答えのない問いを追い続けて、間違った方向にも走り続けて。でも実際にやっている間はそれに気づくこともなく。気づいたら勝手に独りになった。
そしてその間違った極端な考えから、俺はリーダーに告げてしまう。
「このギルドを、やめさせてください」
「そしてそのために、俺と戦ってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます