第8話 見せかけの情報

 今日は特に予定もなく、戦う気分でもないので本のあるところに行こうかとでも思っていた。そして街を歩いているとき、とあることに気付く。

 周りの人の注目を集めている。

 理由なんて思い当たるのは一つしかない。先日の火竜騒動。傍から見れば竜を追い払った、謎の冒険者。街中では恐らくそういう扱いを受けている。現実は火竜に話しかけられ、そのまま去っていったというよくわからない状況だが。


 一度気にしてしまうとずっと気になってしまうもので、本を読んでいるときも歩いているときも食事をしているときも、常に目線がたくさん向いているようであまりいい気分はしない。

 とはいえそれで追い払ったりするわけにもいかずな生活を続けて数日ほど経った頃。


 何気なくギルドへ戻る道の途中。ギルドへの裏道なので基本的に誰も通らないような場所だが、わずかに視線を感じる。職業柄、受ける視線から相手がどのような関係か。敵意はないが、こちらの情報を集めているような...スパイか?

 そんな組織がいるとは聞いたことがないが、念には念を入れてその人物を追いかける。即座に逃げ出す謎の人物。姿からすると子供か?

 牽制にナイフを投げる。確実に足に刺さる...はずだった。


 そのナイフは刺さったようで、。足にはわずかな傷が残っているが、実際にナイフが刺さったわけではなく、謎の人物の前を何もなかったかのように飛んでいる。

 しかし、なぜか足が一瞬止まったように遅くなった。その隙を逃さず、やっとの思いで服の襟元をつかむ。


「やっと捕まえたぞ、お前はいったい、何者だ?」


 少し息切れを起こしながら問う。

「ボク?そうだなぁ、情報屋、とでも言っておこうかな」

「ドラゴンを討伐した勇者、そして"トレントハンター"さん?」

 薄茶のフードをかぶった背の低い男は答えた。




「トレントハンター?人違いじゃないか?」

 平然を装って問う。

「嘘をついたって無駄だよ。その魔力、そこからボクにはわかっちゃうのさ」

 魔法を迂闊に使った弊害。それはリーダーにも言われていたことではあった。恐れていたことがそのまま起きた形だ。

 情報屋、そして俺のことを調べている、そこから出る結論は。

「つまり、誰かが俺の情報を求めているってことか...」

「まぁ、そうなるね」

 お互いに得物を取り出して、臨戦態勢になる。


「こんな状況だけど、ぶっちゃけ戦いたくないんだよね、だって危害を与えるつもりはないし」

「じゃあ依頼者を聞いたりすれば答えてくれるのか?」

「それはちょっと。情報屋ですから。」


 気づいたら襟から手を離している。フリーになった情報屋が投げたのは、小さな球。煙幕か、即座に前に出る。その直後に広がる黒煙。

 逃げようとする足音を聞いて、そちらのほうへ追っかける。

 すると突然、目の高さに石が。鬱陶しいのでナイフで弾く。そしたら前に姿を捉えた。

 先程魔法で痛い目を見たばかりだが、余りにもリーチがありすぎるので魔法を使って加速。リーチを詰める。そして近づいた相手は目をふさぎ、右手に魔法を構えていた。閃光か!

 即座に目をふさぐも、強い光に一時的に何も見えなくなる。少しして目を見開いたら、今度は完全な闇。これも魔法か。今度は音も聞こえず、かなりまずい状況だ。


 壁に沿って走って少しして闇から出たはいいものの、すでに姿を見失っている。とはいえ路地裏なのが幸いだ、急いで屋根に上って上から探す。

 見つけた。近くに行っていないのが幸いだ。上から行った分、かなりの距離を短縮して追いついた俺は、またナイフを投げる。今度はすり抜けても大丈夫なように、火薬を付けて。

 また足をすり抜けたナイフ、しかし火薬にあっという間に気づいて一歩後ろに引く。直後に小さな爆発を起こし、向こうの体勢は悪い。

 その隙に下に降りて情報屋を捕まえようとしたが、向こうも同じ手にはかからない、とナイフを振って距離を取ろうとする。


「思ったよりしつこいなぁ」

「生憎、こっちにもいろいろあるんでな。どこまでの情報を持ってるかわからないが、何かを握られたからにはなかったことにしなきゃいけないのさ」


 そしてまた睨み合う。先に動いたのは向こうだ。またしても目をふさいで光魔法を発動する。今度は警戒していた分自分も目を隠す。その隙に何かを投げた音。少し光が弱くなったのを感じた瞬間に目を開け、寸前でかわす。楔みたいなものを投げていたみたいだ。


 流石にもう少し全力で行かないと、捕えれられなさそうだな。魔法拳銃を出し、雷弾を小さく絞って撃つ。その分魔法拳銃も小さく、相手からは視認しにくいはずだ。

 しかしさすが魔力で俺を調べ上げた人間というべきか、あっという間に躱される。

 すかさずもう1発、今度は速度を上げて撃つイメージで。これはなぜかすり抜けた。

 すり抜けた一瞬、横に何か見えた気がして、もう1発、そして少しずれた位置にもう1発。


「ふぅー、危ないなぁ」


 明らかに動揺をしているのが見えたので、同じ作戦で試してみるか。今度は少しずらして撃ってから、速い弾を撃つ。


「さすがに同じ手は、食らわないよ!」


 直前に動かれ、無理やり狙いをつけようとしたのが悪かった。横に飛んで無理やり狙いを合わせようとしたが、最終的に先に撃った弾の後ろ側に当たった。

 そのとき、俺は見てしまったんだ。


 先に撃った弾の軌道が曲がったのが。

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