第7話 火竜の目的
いかにもアイデアがあるかのように前線に戻ってきたわけだが、そんなものがあるわけでもないので困っている。
炎を水魔法で消すことはできてもブレスに対しては焼け石に水だし、もし爪で攻撃されたら受けきる自信はない。
とはいえ、あのスキルを見せるわけにはいかない。となると、あの作戦しかないか。
とりあえず水の魔法を構えて、狙うのは竜の目の部分。その次に鼻、そして首。
要するに、生物としての急所を狙う方向だ。
グオォ、って苦しそうな声を出して、火竜が暴れ始める。冒険者が余計な攻撃を受けないよううまくこちらに誘導しつつ、尾やら爪やらを避けて、多少下がった頭部にまた魔法で攻撃。
こうして回復の機会を作りつつ、町への被害は防げそうか。
そしていったん退いた冒険者が戻ってきて攻撃を再開する。とはいえ、やっぱり冒険者の攻撃では大した打撃にならないか。
その時、ギルドから魔法使いが集まったのか、後衛から詠唱を始める。とりあえず、魔法使いを補助しつつ耐えることにするか。
攻撃が向きそうになったら少し強めの攻撃をしてまたこちら側にヘイトを向けて、魔法使いに攻撃が飛んでしまったらうまく受けて打ち消してを周りのタンクと一緒に行う。
そして魔法使いの全力の魔法が今、発動する。
「ミーティア・ライト!」
竜の頭上からたくさんの巨大な岩石が降り注ぐ。これならだいぶ有効打になるか...?
静かになった火竜に剣を持った冒険者が一気に詰める。魔法使いも次の詠唱をはじめ、ここからが正念場だ。俺も前に出る。
その時、火竜が空に飛びあがり、空中で停止した。剣士は目線を切らず、魔法使いはあいかわらず詠唱を続ける。
そして二度目のミーティア・ライトが当たった直後。かつてないほど大きな火竜の咆哮。周りの空気が揺れ、皆足が止まる。
竜の口にとてつもない熱が見えたのも、その時だった。
「みんな逃げろ!!!!」
直後吐き出された火球は地面にぶつかって、巨大な爆発を起こす。火竜が自ら上に飛び上がって自傷を避けるほどだ、冒険者を漏れなく全員巻き込んでいく。
そして残ったのは焼け野原と、何人かの冒険者の遺体、そして自分たち怪我を負っている冒険者ばかりだ。
辺りは血にまみれ、息もなく倒れる人が何人か目に入る。
その時、あの日の夜のことがフラッシュバックした。
優しそうで、悲しそうな元母親の顔、その人に銃を突き付け、消し去った自分。無理やり掘り起こされる過去の記憶、自分を捨てた母親への憎しみ。
突如すべてを忘れ、無意識で魔法拳銃を竜へ向ける。状況はあの時とかなり近いが、あの時以上に何も考えず、純粋な殺意がそこにあった。それがなぜかはわからない。
そして自らの意思のまま、引き金を引く。その時だった。
赤い結界が自分を包み、周りの時が止まったのは。
どれくらい時間が経ったか。全く消えることのないドラゴンと、動くことのない人物。動くのは、自分だけだ。何度も引き金を引きなおすが、特に弾が出るような様子はない。
「どうなってんだ、これ...」
「悪いが、お前と一度話をしたくてな、時を止めさせてもらった」
「転生者よ」
この声はどこから...?
「とりあえずその質問にお答えしよう。私、ドラゴンが思念を通してお前に語り掛けている」
「ドラゴンが喋ってるってことか...」
「うむ、そのような解釈でかまわないぞ」
「さて、じゃあ俺に何の用なんだ?」
少し冷静になった頭で一番疑問になっていることを聞く。
「この世界にはびこる、不老不死の話題だ」
正直またこの話題かと思いつつ、とりあえず話を聞き続ける。
「昨今人間を不老不死化させるという存在がいるのは何となく知っているだろうが」
「その存在が実際に人間を不老不死にしてしまった」
「そして、これからどんどんそんな存在を増やそうとしている」
「つまり、このままいくと世界のバランスがことごとく崩れてしまうのだ」
「そして今回の目的が、その存在への警鐘、攻撃と人類の調整」
「なるほど、大体話は掴めた。正直お前を今でも殺したい気分だが...」
「それ以上に火竜、お前は何者だ?俺が転生者なことを知っている存在はいないはずだが」
「あまり明確にいうのは難しいが、一言でまとめてしまえば神の使い、ってところだろうか」
「世界のバランスを直接いじれない神に代わって物理的に調整する、そんな存在だ」
神の使いか...くだらねぇ。
「最後にこんなものに価値はないだろうが、すまなかった。」
「こちらも仕事なのだ、理解しろとは言わないが、自然とはそんなものなのだ」
そんなセリフを残して、火竜は飛んで去ってしまった。ほとんど言いたいことだけ言って逃げられた形だが、話のスケールについていけず呆然としていた。
救護のメンバーが集まったのは、その20分くらいあとの話。
最終的に数十人の冒険者が亡くなって終わった、今回の火竜騒動。嘆き悲しむ人は多かれど、町に大した被害はなく今日も普段通り回っている。
そんな中、今回の件をきっかけにまた新たな問題が起ころうとしていた。
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