第5話 正義感の金髪脳筋

 少し前のトレント討伐でそこそこなお金が手に入って余裕があるし、今日の鍛錬で疲れたので酒場に来ている。

 普段お酒は不用意な言動を避けるため飲まないようにしているが、多少のお酒は生き抜くためにも必要だ。ビールと、適当にソーセージ。


 適当に待ってたら注文が来たので、とりあえずソーセージをつまむ。そしてビールをぐびり。プハー、って声が出る。

 のんびり飲んで少し酔いも回ってきたか。ふと周りを見るとさっきより冒険者っぽい人が増えてきた。そのせいか、少し騒がしくなっている。


「なぁ、突如あの森からトレントが消えたらしいぞ」

「実際森から魔物が消えて、木を伐りやすくなったのはいいことだけども...」

「後輩を鍛錬するための場所をほかに探さないとなぁ...」


 思ったより大事になっているみたいだ。とはいえ、「俺が原因です」なんて言えるわけもないしなぁ...

 暗殺者の職業病みたいな感じで周りの会話を適当に耳に入れていたら。


「あ、あの、やめてください」

「いいじゃねぇかよぉ~、一緒に宿まで行こうぜ~?」

「そういうサービスは受け付けてませんので!!!」

「お客様は神様だぞ~?」


 何やら客の一人がうざ絡みしているらしい。だが、誰も声をかけたりはしない。逆襲されるのが怖いからだろうか。めんどくさいが、俺が行くか?そんなとき。


「そこのあなた!店員さんにしつこく絡むの、やめませんか!」


 変な奴が来た。

 金髪でボクシングをやっているような人がするような髪型をしている、見た目も行動も脳筋な、そんなやつ。

 といってもこいつは暗殺ギルドの仲間の一人だ。正直うるさいが、正義漢なのでこの状況で現れてくれて助かった。


「あ?お前外出ろや、ぼこしてやるよ」




 そして外、観衆がいつの間に店の外からも集まって20人ほどの人だかりになっている。その中心にいる、酔った冒険者と金髪脳筋。

 冒険者側が先に仕掛ける。


「おら、一発で決めてやるよ!」


 そしてとてつもないパワーのパンチ。しかしそれは届いたようで、効果はない。なぜなら、


「なっ...」


 確実に当てたと思ったパンチが、わずかな距離まで迫った瞬間跳ね返される。その隙を見逃すやつじゃない。


「あまり騒がしくするのも悪いので、一発で決めますよ!」


 そして一発発勁。お腹に正確に当たったそのパンチは、屈強な冒険者をダウンさせるほどのパワーだった。


「ふぅ~、ってナイトさん、いたんですか!」

「いたなら声かけてくれればいいのに!」

「そういうところが暑苦しいから嫌なんだよ...」


 めんどくさいやつに絡まれてしまった。気づかれる前に立ち去ろうと思ってたのに。

 因みにナイトっていうのは一応あるコードネームだ。リーダーがつけたダサいやつなので、普段はそれで呼ばれないようにうまく立ち回ってたりする。まれにリーダーが呼ぶかこいつが呼ぶかが大半だ。


 ◇


 数日後、またこの金髪脳筋と一緒に行動をする機会が来てしまった。

 暗殺ギルドと銘打ってはいるが、そんなことをしては国とかから目を付けられるし一般受けが悪いので基本的には傭兵のような何でも屋のような役割を表としている。

 そんなわけで、今日は要人警護だ。商人ギルドで高い権力を持つらしいが、正直依頼者がどのような思想だったりしようと仕事には関係ないので興味ない。


 今は森の中を馬車で移動している。人影は今のところ...いた。

 ざっくり5人ほどか、あまり手練れはいなさそうだ。

 一旦馬車を止めてもらい、表に出てくる前に後方にいた二人を排除。そして降りてきたやつらは金髪脳筋があっという間に無力化。

 このままでは危険なので、移動を急がせる。しかし、馬車が走り出す前に、依頼者に向けて飛んでくる細い針。それを動体視力でとらえて、何とか弾く。


「まだまだ敵がいるみてぇだな、さっきは気づかなかったから増援か?」

「しかも手練れですか!燃えますね!」

「お前は増援呼びそうだから一旦黙っててくれ」


 とは言ったが、明確に位置がわかってるわけではないので一撃必殺のあの弾も使えない。ましてや敵の数すらわからない。さてどうするか...


 そして出した答えは、無理やり馬車を動かすことだった。もちろん逃げではなく、攻めの一手として。

 飛んでくる見えにくい針を俺が弾きつつ、全速力で走りだす馬車。そうすれば。

 敵が追ってくる。敵の位置と数は大体わかった。後ろは暗殺者系の手練れ一人、前には物理型の手練れ一人。

 流石に弾道を曲げることはできないので、いったん後ろのやつに一撃必殺弾を当てる。そしてあと一人か。そうとなれば...


 敵が前に降りてきた。ちょうどいいな。

 金髪脳筋が待ってましたとばかりに出てくる。まぁ有効打もないし警戒をしつつ見物するか。

 物理型のやつが両刃の斧を振り回す。しかしやっぱり完全に当たらないので明確に斬撃を当てることもできず。


「やっぱり、このスキル邪魔ですね」


 そういってスキルを解除したと思われる金髪脳筋。そうすると多少不利になるはずだが、それでも大丈夫だと思えるのはなんやかんやでこいつと一緒のギルドにいて長いからか。


「ふん、調子に乗るな!」


 そういって振った斧も、攻撃にはならない。金髪脳筋に掴まれて、それを引き抜こうとしているが、抜けることはない。

 金髪脳筋がフン、と鼻息を鳴らしたかと思ったら、斧ごと振り回す。あっという間にその敵は木に激突し、瀕死状態。思ったより弱かったな。


 ほっといてもどうせ死ぬだろうしいいかと思ったが、ふと発した一言が気になってしまう。


「俺だって、になれば、このくらい...」


 不老不死?そんなものがこの世にあるのか?

 別に生に執着がある人生でもないが、なぜかその言葉に引き寄せられるような何かを感じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る