第4話 炎弾<ファイア・バレット>
今日はあまりいいクエストもなく、暇なので森に来てみたが、当然あまり魔物はいない。昨日狩りつくしてしまったからだろう。
とはいえ正直鍛錬ができないと困るなんて言う個人的理由で、もうちょっと奥まで入ってみる。強い魔物でいいから、出てきてくれないかな。とは思うが、あまり強敵に出会っても対処がめんどくさいうえにいろいろと追及がめんどくさくなりそうだ。
そんなことを適当に考えつつ歩く。
そうしてどれくらい歩いただろうか。この森自体はそこまで大きくないはずだが、ちょっとずつ鬱蒼としていくのは見ていて楽しいものではない。その割に、魔物は全く出てこないし。
そしてたどり着いたのは、森の中にある少し開けた空間。まるで、勇者のための剣でも置いてありそうな、そんな空間。
そしてそこにある、いやいるのは巨大な大木。大きいトレントだ。今日の鍛錬はこいつにするか。
そばの木の枝に乗って隠れつつ、ファイアボールを速射で3発。全部ヒット。しかし、大して効いていなさそうだ。見た目は木なのに。
しょうがないので一旦降りて火で螺旋を描くイメージで。
「ファイアストーム」
渦を巻いて敵に向かっていく炎。しかし、巨大なトレントが腕を振る。
ブオン、と大きな音を立てたかと思えば、せっかくの魔法は影も形もなくなっている。
そんなのありかよ、って感じだが、感情が大きくなると間違った行動を選びやすくなるのはすでに嫌なほどわかっているので抑える。周りにはそもそもそんな感情を抱かないやつばかりなので、そういう意味ではとても負けている気がするが。
今度はもっと近づいて、ファイアストーム。今度はもう少し効いたか。また腕を振って攻撃してきたので、急いで避ける。
「この丸い体が厄介だな...」
敵のこの形状のせいで、ファイアストームを使ってもあまりしっかりと焼き切れずに横から流れて行ってしまう。それに、前回の戦いでわかっている通り剣は歯が立たないだろう。
その時、トレントがたくさんの根を生やしてこちらに飛ばしてくる。もちろん、全部避ける。たくさんの攻撃を避けるのくらい、いやなほどやってきたからな。とはいえ、このままじゃ埒が明かない。飛んでくる根っこを切りつつ、次の作戦を考える。
次は、火で囲んでみるか。名付けて、包み焼き作戦...あまりいい名前じゃないので却下で。
「ファイアウォール」
トレントを炎で囲んでしまう。ガァ...みたいな鳴き声らしきものは聞こえるが、あまり効いているときの声ではない気がする。それに、これは思ったより魔力の消費がすごいし、目立ちすぎる。即座に解除するが、すでにバテ気味だ。
何か、一発で決める手は...
魔法拳銃のあの弾を使うべきか考えてしまうが、鍛錬なのであまり使いたくない。しかしそれ以外に持っているもの...
「イメージ」それは、魔法を使う上で一番大切な要素。
一か八か、やってみるしかないか。
一度距離を取り、相手のほうをしっかり見つめる。
そして魔法拳銃を片手で構え、イメージするのは炎でできた弾丸。焚火の炎部分だけを想像し、それを思い切り圧縮して、銃弾のサイズ、形まで。そしたら、銃の中が一気に燃え盛る。できたみたいだ。
そして、一度軽く深呼吸をして、狙い撃つ。
「
パシュ。いつも通りの弱弱しい発砲音と、直後に一気に広がる熱風。まだ、炎の圧縮は完璧とまではいかないみたいだ。
その弾が当たった瞬間、トレントの体に穴が開き、そこから一気に燃え盛り、焦げる。その火はトレントの中でどんどん広がり、最終的にはほぼ完全な炭にしてしまった。
「さて、この炭をどうするか...」
結局これが残ってどうなるか想像できないがまずそうなことはわかるので、あの弾で消し去った。結局二度手間をしていることになるが、まぁ仕方ない。
こうして鍛錬は終わった。
「
そんなことを考えながら街に帰る。とても重大な問題をいくつも残しながら。
<おまけ>
今日はギルド内の地下訓練施設で炎弾の練習。きっと水魔法も使えるだろうが、余計な魔法は打ちたくないので桶に水を入れてある。いざというときの炎上対策だ。
パシュ。パシュ。つど熱風が地下室に流れる。正直とてつもなく熱い。
とはいえそれは自らの努力不足なので、また何発か。
その時、リーダーが入ってきた。
「おう、って熱っ!なんだこの部屋」
「リーダー、今は炎に関する魔法の研究中です」
「魔法か...」
「どうかしましたか?リーダー」
「魔法は、正直やめとけ」
「といいますと?」
「魔法は魔力を媒体にして発動するものだが、実は魔力というのはある程度人間や職業などが判別できる要素を含む」
「具体的には生まれや年代、発動した時間や形状、場合によっては個人を特定できるレベルまで絞り込めることもある」
「だから、魔法は暗殺には向かない」
な、なんだって...
魔法を使ってもっと効率的になろうと思ったが、どうやらそれは危険な発想だったようだ。
あ、あの時森で魔法を乱射したのは...まずいかもしれない。
そんなことを考えないように、また鍛錬に打ち込むのだった。
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