第2話 親殺し

 俺の元父親が住んでいるのはスラム街から少し離れて、一般的な平民の住む住宅街。父は別の女性と暮らしていて、母は一人貧しくスラム街に住んでいるらしい。

 すでに実際の依頼という体で今回のことを実行する以上、狙うタイミングや環境づくりは自分の役目になっている。


 最終的なターゲットは父、父と暮らしている女性、母の3人。そもそもあんな人間父母と呼ぶ義理もないが、便宜上だ。

 そして選んだのは夜。まだ人が寝静まる前。その理由は、当然そのおとこに自分をなぜ捨てたのか聞くためだ。そして、寝てる時に死ぬより、起きているときに死ぬほうがきっと痛いだろうし。

 場所はそのまま家の中、手段はそれ以外ないのでナイフ/体術。

 とにかく、とんでもなくつらい思いをさせて殺すことは決めていた。


 夏だから、窓は基本的に開いている。対して高くもないので壁を蹴って中に侵入。寝室も2階、この部屋ではないので足音を立てずに移動。そして相手が反応をする前に行動するためにナイフを持ったままバッ、とドアを開けてナイフを向ける。

「だ、だれだ!」

 一人の女性がベッドで横になっていて、その男はベッドのそばに立っていた。

 そしてナイフに気付いたのか、

「強盗か...物騒な世の中になったもんだな、ましてやこんな子供が」

 勘違いをしてくれたのは正直助かる。とはいえ、顔を隠していないのに自分の子供だとわかりもしないのか。もともと親に愛情なんてないが、なおさら失望する。

「御託はどうでもいい。死ね」

 ナイフを改めて握り、男に向かって走り出す。相手は自警団を自称するグループの幹部だ。ある程度用心しないといけないな。




「ふん、俺様に挑もうって勇気だけは褒めてやるよ」

「だがな、甘いんだよ!」

 直後、横から飛んでくる蹴り。あっという間に吹き飛んで、壁にぶつかる。糞が。あの時と大して変わらないじゃねぇか。

 とはいえ、立ち上がらないと追撃が来る。ナイフは離してしまって男のそばだし、もう一つのナイフは殺すにはあまりにも足りない。とりあえず、考える時間を稼がないと。


「そもそもお前は、子供と妻を捨てたくそ野郎みてぇじゃねぇか」

「チッ。言い方が気に食わねぇが、その通りだよ」

「だがな!俺様にふさわしい女以外には興味ねぇんだよ!あの女、ちょっとしたことですぐ謝りやがるし、そのくせ改善はしねぇ。みずぼらしいったらありゃしない。」

 仮にもそれが一度は愛した人間に対しての感情なのか。どんどん気持ちがヒートアップする。

 そして気づけば殴りかかるような体勢で、相手に突っ込んでいた。

「だから、甘ぇっつってんだろ!」

 また、横から蹴りが飛び、壁に激突。くそっ。

「ったく、いちいち気に障る野郎だ、そんな殺してほしいなら」

「ぱっぱと殺してやるよ」


 そして落ちているナイフを手に取って、俺のもとに歩み寄る。くそっ、体が全然動かねぇ。

 くそっ、俺は、こいつを、殺さなきゃいけないのに...ここで、死ぬのか?

 そう思った直後、手が無意識で勝手に動き、魔法で作った黒い拳銃を構える。命の危機を感じてか、一瞬男の動きが止まる。その隙を突いて、撃つ。

 ドン!




 今までだったら、パシュッ、なんて軽い音を立ててとてつもなく弱い弾が飛ぶだけだし、もし普通の拳銃だったとしても脇腹に当たったら大抵の場合倒れても立ち上がられる。ましてやあの音、実物であればとんでもない反動のはずで、手に衝撃が走るはずだ。

 しかし、衝撃も何もない自分の体、明確にわかる壁に残った弾痕、そして男。

 あっけにとられそうな感情を抑え、女のほうに銃を向け、撃つ。しかし。

 パシュッ。

 出てきたのは知っているほうの弾。あの弾はまぐれだったのか、研究が必要そうだ。

 だが今は大きな音が鳴ってしまった以上、時間がない。急いでナイフを拾って女の首を切る。これで、初めての依頼の半分は終わった。


 そして、一度拠点に戻ろうと思って移動していると、母を見つけた。人に見られないよう屋根の上からだし、明らかにやつれているが、あれははっきりとそうだろう。近くに降りてから、歩いて接近する。

 満月がほぼ真上だろうか。月明かりでその人は少し照らされていた。

「あぁ、──。こんなに大きくなったんだね。」

 こっちの親は、見ただけで自分の子供だとわかったみたいだ。しかし、その人物がしゃべっているだけで、声にノイズが乗ったように聞こえ、自衛が走る。

 こんな感じのことを言っているらしいが、もう興味も愛情もない。

 拳銃をもう慣れた手つきで右手に出し、構える。

「そうか。子供を捨てた母親だもの。結末なんてこんなものよね」


 諦めたような、無表情ともちょっと違う、悲しそうな顔。少し胸が痛むが、依頼なのでしょうがない。

 ドン。心臓に一発。そして母親、いや母親もこの世界から消えた。




 そして拠点に帰ってきて、リーダーに依頼の完了を伝える。

「そうか、ご苦労だったな。」

 それ以外の言葉は何もない。親を殺したということに対しての配慮か、それとも。


 その日、俺は夢を見た。

 その夢は、今とは全く違う別の世界。謎の黒い箱と光る板で遊んでいる?ようで。それに、こっちの世界には親がいる。母親が知らない言語で叱りに来ているようだ。

 その程度で、夢は覚めた。きっと、親のことを考えてしまったからこんな夢なのだ。

 親はいない。そう改めて思い込むことにして。

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