異世界転移トップ級暗殺者は知らず知らずで世界を変える

なし

プロローグ

第1話 過去

 俺の中で一番古い記憶は、6歳くらいのこと。住居が立ち並ぶ街、しかしそこに人はほとんどいない。僅かにいる人も瓶を持ってふらふらしていたり、段ボールの上で寝ていたり。

 いわゆる、スラム街だ。


 変な人ばかりがここにいるが、それは自分でも例外ではなく。おそらく捨てられたのだろう。親すらなく、衣食住すべてに困るような生活。時々やさしいおじいさんがパンをくれたりしたが、基本的には盗み、暴力、平穏とは程遠い世界だ。

 当然、精神はどんどん疲弊していって、いつからか悲しさとかも何も覚えなくなって、生きるためだけに動いているような生活だった。


 そして今日も、人気の少ないところで人を襲う。弱肉強食の世界だ、人気のないところを通った不用心さを恨むんだな、なんて自分を正当化しつつ。そうでもないとこんなことやっていられない。

「おい、金を出せ」

 極力低く、重い声で一人の男に圧をかける。白と黄色の中間みたいな髪色をしているその男は見た感じ筋肉質ではあるが丸腰だし、重い石を使った罠も仕掛けてある。それにこっちには道端で拾ったナイフもあって、脅しとしては十分だ。そう思っていたけど、

「ほう、仕掛けた罠、ナイフを持つ姿と目。正直これで十分だったろうな」

 全く物おじしないし、罠もばれている!?一瞬罠のほうを見てしまう。

 その刹那、強烈な平手打ちが飛ぶ。防御する余裕なんてあるわけもなく、横に吹っ飛ぶ。

「一つ、相手からは目を離すな」

「一つ、相手の攻撃は最初から予測しておけ」

「一つ、罠は巧妙に、多重に配置しろ」

 どうやらありがたい格言とやらを言っているようだが、さっきの平手打ちで意識がほぼ飛んでいる。そのまま意識を失ってしまった。


 目を覚ました。いったい今はいつだろうか。さっきの人を逃した!?このままだと今日は食事抜きだ。今からでも次の人を探さないと...

 様々なことが頭を駆け巡り始めたが、我に戻った時に気付いた。

 さっきの男が、目の前にいることに。

「うわあっ」

「うわあとは失礼な。殺さないように手加減して平手打ちにしたし、意識が戻るまで守ってあげたんだが」

 殺さないように、手加減...?いっそこんな生活なら、殺してくれたほうがましだったろうに。

「殺さないようにって、お前はいったい何者なんだ!?」

「俺は、暗殺ギルド "muerteメルテ" のリーダーだ」

「お前に名乗る名などないがな」

 暗殺ギルド...存在すら知らなかったけど、道理でとんでもなく強そうなわけだ。

「そもそもこんな俺に何の用だ?このまま逃げるでも何でも出来たろうに」

「あぁそうだったな。一言でいうと」


「お前をスカウトしようと思ってな」


「スカウト?暗殺ギルドに?」

「そうだ。お前の姿には才能の片鱗が見える。私のもとで指導を受ければ、世界でもトップレベルの暗殺者になれる」

「それに、ついてくれば衣食住は簡素だが保証する」

 衣食住の保証。正直、今喉から手が出るほど欲しい。

「とはいえ、暗殺ギルドって何をするところなんだ?」

「お前が意識するようなことは特にない」

「名前の通り、ひたすら暗殺をする、それ以外のことは大体事務員がやってくれるからな」

 つまり、好待遇にもほどがあるってわけだ。

「わかった、俺行くよ。その暗殺ギルドってやつに」

 殺したいやつへ殺意を向けて。

「うん、いい目をしている」




 そして次の記憶は、8歳になったあたり。ふとリーダーが、変な水晶玉を持ってきた。

「これに手を触れろ」

「そもそもこれは何だ?」

「この世界の人間には、大体の場合スキルが備わっている」

「スキルは無自覚で使える奴は基本いない。この水晶で自分のスキルを確認し、それを想像、制御して、初めて本当のスキルとして扱えるのだ」

「ここにはスキルがないやつもちらほらいるが...」

 ぼそっと言ったのを聞き逃さなかったが、聞いてないふりをしておく。

「説明はこんなところだが、質問はあるか?」

 特にないので首を横に振り、水晶玉に触れる。

 映し出されたのは、拳銃。とはいっても、あくまで魔法をベースとした能力のようで、青のような紫のような、それらが混じったよくわからない色をしている。

「恐らく、武器として具現化できるタイプのスキルだな。やってみろ。」

 そしてイメージを膨らませると、右手に現れた拳銃。驚くほど手にぴったりなのは、魔力で作ったからか。自分で作ったものは、色は真っ黒だったが。

 ってことはおそらく...壁に銃を向け、トリガーを引く。

 パシュッ。

 レーザー銃みたいな音と、壁にわずかに穴が開いたかどうかの威力。正直、がっかりだ。

「うむ...これは体術を中心とした訓練にしたほうがよさそうだな」

「とはいえ、スキルはスキルだし、想像次第でいくらでも変貌を遂げる」

「訓練は欠かさないように」

 実際、このスキルはのちに大きな変貌を遂げていく。


 そして数日後、ある依頼が俺のもとに来る。初めての依頼だ。

「そんなわけで、初めての実戦なわけだが」


「殺害対象はだ」

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