神月 二頁

 恵虹けいこうは、彩色さいしきつえ使つかって、みずからのちから使つかった。


うつ白雲丸しらくもまる


 つえまえし、ぐるっとえんくようにうごかすと、やつの目先めさきにもくもくのしろくもあらわれた。

 するとそのくもは、立体感りったいかんし、すぐにそらった。

 恵虹けいこう使つかちからは、【いろちから】だ。あたまなか想像そうぞうしたいろ、または具現化ぐげんかし、とき生命体せいめいたいにし、うごかすこともできる。

 それがいま恵虹けいこう使つかった【うつ】のわざである。


 やつがあらわしたくもには、かおがついており、うごくうえに言葉ことばはなした。

「おっす、ご主人しゅじん!」

 はなせるくらいの知性ちせいったものならば、それなりに自我じがっている。

白雲丸しらくもまるわたしせてまちめぐってください」

「かしこまぁー」

 白雲丸しらくもまるは、恵虹けいこうあたませて、そらたかいあがった。あのくもすのは、これがはじめてではなく、よく空を飛んでいた。しかし、あいつ、くもとしては知性ちせいがあるが、かしこいやつかとわれれば、そうでもない。


 

 しま名前なまえは『神月かんつき』といい、つきかみおさめている土地とちである。

 恵虹けいこう白雲丸しらくもまるは、廃墟はいきょまちめぐめぐって、時折ときおりボロボロのかべれて、会話かいわひろげた。

「どこもかしこもひど有様ありさまですね……」

いえとかボロボロだな」

いまから三十年さんじゅうねん以上いじょうまえ時代じだいには、すごくさかえたまちで、海外かいがいからもひと沢山たくさんおとずれて、にぎわっていたようですが」

「それがなんでこんなボロボロに?」

三十年前さんじゅうねんまえに、やみちからつかさど黒鬼くろおにぞく魔物まものがこのめ入り、ほろぼしたからです」

「えぇ!? どうして?」

かれらをしたやみかみ闇奈緒やみなおさまは、まれたときからきらわれ、何万年なんまんねんものあいだ、ずっと幽閉ゆうへいされてきたのです。たった一人ひとりで、ずっと」

何万年なんまんねん一人ひとりで!? ボクなら、とっくにんじゃうよ!」

 おどろあわてる白雲丸しらくもまるたいし、恵虹けいこう微笑ほほえんだ。

「ええ、ですね。闇奈緒やみなおさまうらみつらみは、なみのものではないでしょう。

 それにくわえて、この神月かんつきしまおさめる、つきかみ月夜つくよさまは、闇奈緒やみなおさまあねであり、やみちからにとっての脅威きょういとなりますから」

ねえちゃんのしまほろぼしたのか!」

「さらには、おなじく闇奈緒やみなおさまあねにあたり、やみちから相性あいしょうい、太陽たいようちから。それをつかさどる、太陽たいようかみ陽霊ひるめさましま同様どうようほろぼされました

「それってケッコーヤバイ?」

「らしいですよ。当時とうじ新聞記事しんぶんきじ書物しょもつには『ひかりうしなわれた』とか『暗黒期あんこくき到来とうらい』だとか悲観的ひかんてきなことばかりかれていたようですが、今日きょう天気てんきですね」

「うんうん、ぽっかぽかだー」

 能天気のうてんきなやつらだ。

白雲丸しらくもまる、あのさかのてっぺんにってください」


  この世界せかいには、八百万やおよろずかみ存在そんざいしている。かみつきかみみずかみなどといった地球上ちきゅうじょう万物ばんぶつかんする超常的ちょうじょうてきちからつ、特別とくべつ存在そんざいである。

 地球上ちきゅう人類じんるいは、まれたときからかみ加護かごけ、おおききく成長せいちょうすれば、そのうちの一柱ひとはしらかみ信仰しんこうし、そのかみちからさずかり、日々ひび生活せいかつ役立やくだてている。

 人類じんるい絶対ぜったいまもらなければならない戒律かいりつには、信仰しんこうするかみは、一生涯いっしょうがい一柱ひとはしらとある。一度いちどかみしんじれば、鞍替くらがえすることはゆるされない。 

 


  そこには、ひろ敷地しきち —— かつて『神月かんつき』のくにおさめた王族おうぞくしろ跡地あとちである。無論むろん、ここもこっぴどくやられた。

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