かつて栄えた島 神月

神月 一頁

 てしないあお四方しほう八方はっぽうかこむ。このあおてしないのは、何千なんぜん何億なんおくもの生物せいぶつ住処すみかとするこの地球ちきゅうというほしが、まるかたちをしているからだ。四角しかく虫籠むしかごのような、生物せいぶつめるかべなどなく、ころころころがって何処どこまでもすすんでいく硝子がらすだまごとく、どれだけすすもうとてなどない。

 てなどないから、何処どこまでも、何処どこにでもくことができるのだ。

 何処どこにもくことができるのに、地上ちじょうすま生物せいぶつたちは、みなまれちた場所ばしょ地域ちいき一生涯いっしょうがいのほとんどをごす。

 生物せいぶつなかでも、卓越たくえつした知性ちせい人類じんるいでさえも、馴染なじみのある場所ばしょからはずれることに臆病おくびょうになりがちだ。

 それがたりまえなかで、たった一人ひとり、“世界せかいたびする” と決意けついし、てのないあおへとした青年せいねんがいた——。

 

 てしないあおは、青年せいねん好奇こうきこころてた。


 

 そして、記念きねんすべき第一号だいいちごうとなるしまに、上陸じょうりくした。

 やつの恵虹けいこう藤色ふじいろながかみかぜになびかせて、紺藍こんあい羽織はおり和服わふくしたにはフリルのついたシャツ、ボトムスには七部しちぶたけのチェックスカート、あしにはブーツをいていた。

 身形みなりれば、おんなのようだが、体格たいかくれば、おとこにもおもえる。

  しかし、やつは、せいへのこだわりがうすく、どちらにとらえられてもとどめない。スカートもきこのんでくという、わったやつである。

 恵虹けいこうは、かえり、りたふねった。

 それからやつは、着物きものびている棒状ぼうじょうなにかをした。花開はなひら数日すうじつまえの、彼岸花ひがんばなのようなかたちをした、しろふでである。ふでっても、さきはなく、万年筆まんねんひつのようにかたくつるつるしている。

 そのぼうは、『彩色さいしきつえ』といい、恵虹けいこう使つかちからすのにてきした、特別とくべつつえだ。これは、やつの師範しはんで、かみより偉大いだいな、物凄ものすごねこさずけたしなである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る