更なる脚

ある日

瑠璃の虫は目覚めた。

瞼はなけれども、

目覚めたと、はっきりと、わかるように活動を開始した。


大きく身をよじる。

片面にある三本の脚を使い、

体を起き上がらせる。


なんだと!?

脚が三本!!!!

なんと脚が三対になっているではないか。

三対の翅。

鋭利な大顎はそのままに、

一番頭側の力強い脚が一対。

その下にある二対は鋭利な刃のような、

細く、それでいて洗練されたフォルムをしている。

これで糸の海を切り裂き、進むつもりなのだろうか。

そのフォルムは、

完成された美しさを誇っていた。


そういえば、顎の虫はどこへ行ったのだろうか。

瑠璃の虫が倒した後より見かけていない。

こんなに見通しがよい荒廃した台地だというのに、

見当たらないというのは、つまり消滅したのだろう。

不思議だ。

とはいえ、そんなことは瑠璃の虫には関係なく。

糸の海より下に行くべく、

断崖絶壁へ歩を進める。


瑠璃の虫が飛び降りた。

その鋭利な大顎を一文字に広げ。

絡まりそうな糸を新たな二対の脚で跳ね除け、

時に切り裂きながら、

糸の海を突き抜ける。

その後、やっと安心できると思った瑠璃の虫。

しかし、目の前に瑠璃色の膜が張っている。

膜を突き抜けた瞬間、

瑠璃の虫に熱が走る。

大顎と脚、翅が瑠璃色の炎に包まれる。

炎上する体で、さらに速度を上げ、瑠璃の虫は地面へと接近する。

地面と接触した瞬間。

すさまじい衝撃波が走り周囲の緑の物体を吹き飛ばしながら、

大きなクレータを作る。

相当な衝撃だろう、

瑠璃の虫はもはや力尽きる寸前。


クレーターの中心部に瑠璃色の小さな石が見える。

瑠璃の虫はそれに向けて、

炎に焼かれながらも、残っていた力強く太い一対の脚をつかい、

胴体を地面に擦りつけながら石へと這う。


石へとたどり着き瑠璃の虫が触れた瞬間、

瑠璃色の小さな石は砕け散った、瑠璃の虫の命と共に。


第一章 顎の虫、繊細な脚の虫の章 完

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