第12話 闘う

 

 帰る道中は3人は無口でキール様は「足が痛いのが吹っ飛んだ」と、ボソッと呟いておられた。



 あれからすぐに、ペイトン様とアドニス様の秘密のボートデートに動揺して泣いたお詫びにキール様に恋愛小説数冊を手紙付きで送った。

 さすがにクリス殿下に直接手紙や本を送ることは不敬過ぎてできない。

 キール様を通じてクリス殿下も一緒に恋愛小説を読んで自主練してもらえたらと思う。

 

 すると、すぐにお礼の手紙がキール様から届いた。

 また例の共同墓地に集合とのこと。

 そう付け加えられていた。

 


 指定された日時に共同墓地のガゼボに行くと、すでにクリス殿下とキール様は初めて集合した時と同じように、ラフな格好で待っておられた。


「アドニスをデートに誘おうと思う」

「えっ?」

 今日は先日の反省会と、恋愛小説の感想会だろうと予想をしていたから、開口一番にクリス殿下の予想外の発言に面食らった。


「先日、勉強した人気店とかにデートですか?」

「それを一緒に考えてほしい。シャンディもペイトン殿を誘ってみるのはどうだ?我々はこの状況を打開するためにも攻めることも同時にしていかないといけないと思う」


 うーん。自分から誘うとか、考えたことがなかった。

 いつも誘われ待ちだったのよね。

 誘う勇気が全然ない。

 いや、誘って断られるのが怖い。

 それがぴったりくる言葉かも。


「そうですね。戦で例えるなら守りばかりでは進軍できないですものね。守りながらも攻めて行かなければならないということか。なるほど。恋愛も戦と同じなのですね」


 わたしの発言が戦で例えたのがおかしかったのか、クリス殿下とキール様は微笑みながら頷いている。


「そうだね。恋愛はある意味、戦や闘いだよね。恋愛で「男の闘い」という言葉はあまり使われないけど、「女の闘い」という言葉はよく使われるよね。女性の方が闘いが激しいということなんだろうね。ぜひシャンディもアドニスに勝てるようにがんばってください」

 クリス殿下もキール様も満面の笑みで、キール様なんて、ファイティングポーズをわたしにして見せる。


「じゃあ、わたしはペイトン様をチーズケーキの店にお茶に誘ってみようかな。あのチーズケーキ、すごく食べたかったのよね」

 キール様をチロリと見たら、キール様にパッと視線を外された。

 とってもバツが悪そうだ。

 わたし、そんなに怒ってないですからね。


「そして、デート中に話題に困ったら、流行のお店の話や恋愛小説の話をすると完璧ですよね」

「そういうタイミングで勉強の成果を出せると自然でいいよね。わたしもシャンディと同じようにチーズケーキの店には行きたいですね」

 クリス殿下がうれしそうに微笑まれた。


 いま、きっとアドニス様と美味しいね。と言い合いながら、チーズケーキを食べてるところを想像されたんだろうな。

 それもちゃんとたくさんの会話をしながら。


 長い前髪の奥の瞳が優しそうに笑っている。

 クリス殿下に一緒にいるところを想像してもらえるアドニス様は想ってもらえて幸せだと思う。

 早くクリス殿下の想いに気づいてあげて欲しいと切に願う。

 ペイトン様はわたしと一緒にいる時のことを想像してくださることはあるのかしら。

 自分で想像して、一瞬でないだろうなと思うとなんだか悲しくなってきた。


「シャンディ?」

「あ、すみません。考え事をしていました」

 

「でも我々にはデートという実戦までにはもう少し訓練が必要だね」

 クリス殿下が難しい顔をされる。


 確かに絶対的に経験不足だ。

「まずは今できることを考えましょう」

 

 ガゼボでの真面目な作戦会議が始まった。

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