第13話 訓練1
まずは、ペイトン様とアドニス様が顔を合わすことがないように行く候補日や時間を綿密に擦り合わせをした。
お互い、デートの時間だけでも自分だけを見て欲しいと思ったから。
この計画が上手くいきますようにと、共同墓地の全体を見回して、そっと祈った。
ここにおられるすべてのご先祖さまに縋りたい気持ちだ。
そして、これからペイトン様をデートに誘うという大仕事のことを考えると、逃げ出したくなるぐらい気が重くなった。
その後は先日の反省会を少しだけして、恋愛小説の感想会となった。
恋愛小説におけるふたりの反応があまりにも可愛くて、恋愛小説を読み慣れているわたしでも聞いていて赤面してしまった。
手を握る
抱きしめる
後ろから抱きしめる
壁ドンをする
キスをする
クリス殿下もキール様も同士だからと、赤裸々にいままでの経験値を話してくださるが、どれもしたことがないらしい。
それはわたしと一緒だ。
クリス殿下はデートの時にアドニス様と手を繋ごうと思ってがんばったらしいが、緊張してタイミングを逃したらしい。
キール様においては、今まで18年間クリス殿下の側にずっといたため、女っ気ひとつなかったと溢された。
しかも伯爵家の次男とくれば、人気があまりないらしい。
「いまからどれを訓練しますか?」
わたしは大真面目に提案をした。
「シャ、シャンディ!それは…!!」
クリス殿下の長い前髪の奥がすごい赤面しているのがわかる。
なぜかキール様も固まってしまった。
「練習だから大丈夫ですよ。ここは壁がないから壁ドンはムリですよね」
わたしは腰に両手を当てて妙案を考えるがふたりがなぜかすごく慌てている。
わたしは前向きに訓練をしようとしてるだけですよ。決して不埒なことは一切考えていません。
さっき、経験不足を憂いていましたよね?
「まずは手を繋ぐ練習をしてみますか?」
わたしはホイッと手を前に出した。
クリス殿下もキール様もすごく困っているのがわかって、余計に楽しくなってきた。
困らせるほど、ふたりの反応が面白いんだもの。
クリス殿下の手を取り、手を繋いでみる。
「クリス、恋人繋ぎって知っていますか?」
長い前髪を覗き込んで顔を見ると、真っ赤な顔をしたクリス殿下が首を横に振った。
「こうするんですよ」
手のひらを合わせていくかのように手を広げ、ひとつひとつの指を絡めていく。
すべての指を絡めた。
クリス殿下の手は意外にも大きく、ゴツゴツしていた。
剣だこ?
殿下という立場に胡座をかかずに鍛錬を怠らないのは、この人らしいと思った。
「これが恋人繋ぎです。恋愛小説にもあったと思いますが、ふたりの仲が深まると自然と指を絡めたくなるようですね」
わたしにはまだ湧いてこない感情。
手を繋ぐだけでなく、指を絡めてみたくなる熱情をわたしはまだ知らない。
「手を繋ぐだけでいいと思うのだが、指を絡めてみたくなる日がくるのか?」
「そういうものらしいです。例えば、閨をともにする時とかの場面でよく恋愛小説に出てきますよ」
キール様が照れながら激しく横で頷いている。
キール様が読んだ恋愛小説の内容が気になるのはわたしだけ?
「では、次に「抱きしめる」をやってみますか?まずはクリスとキールでどうですか?」
ふたりが顔を見合わせて、同時にとても嫌そうな顔をする。
思わず、そんなに嫌なの?と吹き出してしまった。
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