第3話

 どうして?

 あれ、ハマが来て、ああ、そう。

 煙草買ってきてくれるんじゃなかったっけ?

 まあいいか、あいつのこと追い出すための口実だったし。別に、いてもいなくても良かったんだし。

 「はあ…。」

 ため息しかつくものがない、就職とか、しなくてもいいのではないかと思い始めている。

 だって、あれはさ、お金がない人がすることなんでしょ?私にはある、両親はかなりの額の資産を蓄えていた。

 しかも、言ってみれば親戚づきあいもなかったのだから、就職をするにあたって必要な保証人とか、誰もなってくれないし。

 私は、ぼんやりとしながら宙を眺めた。

 とても虚しかった。

 けれどハマが来たことで気分が紛れたし、このままも寝てしまおうと決めた。

 「栞、栞。」

 最近、お父さんの夢をよく見る。

 母ではない、なぜかは分からない。

 栞、栞って、何度もすごく焦ったような顔で呼んでいる。だから私も返事をしようと思うんだけど、通じない。いくら頑張って声を張り上げても、通じない。

 そこで、たいてい目が覚める。

 私は、空っぽだったからそのことを、ノートに書きつけている。

 忘れたくなかった、お父さんのことも、お母さんのことも。

 でも、とりあえず大学にはいかなくてはいけないので、支度をして部屋を出る。

 ちょっとだけ、あんな汚い部屋にいて、私臭くないかな?なんて思ったりしたけど、すぐに気にならなくなった。

 

 「昨日はごめん、栞、あのさ。」

 特に申し訳ないとも思っていないような顔で、こいつは話し続ける。でも別に良かった、私は、あまりもう全てのことに関心が薄れていた。

 「それはいいんだけど、煙草買ったの?なら払うけど。」

 そうだ、煙草は高い、マジで高い。だから、今どきは金持ちの娘息子しか吸えないだろう、もしくはもう働いている人とか、とにかく若い人には贅沢な品だったから、

 「高いから。」

 と言って、ハマを見た。

 そうしたら、ちょっと動揺した顔をして、苦笑いを浮かべていた。

 こいつ、何考えてんだろ。ちょっと考えても分からない。もしかしたら、私は欠落しているのかもしれない。だって、何か少しずつ、周りが分からなくなっている。それは、いつからだったっけ?

 「ああ、買った。ほら、でも金は要らないから。俺も一本吸ったし。」

 と言って、やっぱり私のお気に入りではなくて、ハマがよく手にしている物を渡された。

 「まあいいけど。」

 私はそう言って、その場を後にした。

 もう、いいのだ。

 とにかく卒論を終えて、就職は縁があったら、そんな気持ちでやっていこう、と思っていた。

 私は、一人ぼっちで構内を歩き、ちょっと前まではそれが痛いと思っていたのに、今は誰に見られても平気になっていた。

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