第2話
「おい、
「やめろ、マジで。」
米太郎をその名前で呼ぶと、激しく抵抗する。だからこいつはみんなに自分のことを田中と呼ばせる。確かに、苗字はそうだけど。
「じゃあ田中。」
「何だよ。」
「あのさ、栞さ。」
「ああ、何?」
栞は、もっぱらこのサークルの話題になっていた。それも仕方ない、あいつの親は最近、交通事故に遭って死んでしまった。何か、俺の親戚にも交通事故で死んだ人がいるけど、本当に身近だ、と思った。
が、まだ大学生の身分で、しかも就職を控えているというのに、親が誰もいなくなってしまうのは、耐えられることなのだろうか。
「ちょっとヤバくないか?サークルにもあまり来ないし。就活もしてるのかなあ。」
「俺この前スーツ着てるの見たぞ。」
「え、いつ?」
「昨日、だったな。」
田中は、どうでもいいような顔をしながら、答える。一学年下で、ちょっと世界が違った。こいつにとって、俺も栞も、先輩でしかないのだ。
「てか、ハマさんは何?栞さんのことそんなに気になんの?」
「ああ、悪い?」
「いや、悪くないけど。栞さんはさ、何か、変わってるよな。ご両親が亡くなってから、さらに変になった感じ。」
「…知らねえよ。」
俺はそう言って、部屋を出た。
でも確かに、米太郎の言う事は間違っていない。
栞はどこか、頭がおかしかった。
俺も、両親が死んでこいつどうなるんだって、怖くなったし、でも、栞はいたって普通だった。むしろ、いつもと変わらない言動で笑っていて、みんなもほっとした。
けど、
「栞、これから飯食わない?」
スマホを取り出して急ぎ足になる。
「分かった。」
案の定、栞はさらりと提案を受け入れた。
そう言えば、前は飯を断ることが多かったのに、最近はいつ誘ってもオーケーだと答える。これも何か、何かしらの変化だととらえてもいいのだろうか。
「………。」
単純に、絶句している。
まさか、こんなことになっているなんて。
栞、なあ。
「栞…。」
俺は何とか声を振り絞った。
が、栞は黙っていた。
黙って、膝を抱えて俯いていた。
部屋の中はぐじゃぐじゃで、歩くところがない。
これって、昔からなのだろうか、栞の両親が生きていた頃から、こうなのだろうか。でも、それにしては異常すぎる。
から元気を振りまいていたのだ、きっと。
栞は、きちんと滅入っていた。
ちゃんと、おかしくなっていた。
俺はどうすればいいのか分からなくて、途方に暮れて栞に頼まれた煙草を買いに行くことしかできなかった。
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