笑い種
@rabbit090
第1話
無茶苦茶やなって、紀之介は言っていた。
確かに私もそうだと思う。
いくら何でも、あの横暴は許せない。
「おばさん、何してんだよ。」
「何もしてないけど、何か?」
へろっとした顔で、道の真ん中に座り、煙草をふかしている。
私達は、今ここで遊びたかったていうのに、この人がここに来るようになってから、それができずに苛立っている。
「なあ、何言っても無駄だって、栞ももう分ってるだろ?」
「でもさ、紀之介。あのさ。」
私は何かを言いたい気持ちが先走っていた。
ここは、私達がずっと使っていた遊び用の場所だって言うのに、煙草は体に悪いから近づくなってお母さんに言われているし、もうどうすればいいのかが分からなかった。
でも、大人になった今、私はその全てが理解できている。
煙草は、うまい。
とんでもなく、うまい。
「ふうー。」
思いっきり吹かして、道行く奴らを威圧している。この前、占いにいったらあんたは羊だ、と言われた。
小心者で、周りの様子を常に気にかけている。
まあ、確かにって思ったけれど、でもいいじゃん。
私は、今職にもつかず何も手につけず、ぼんやりとこうやって毎日毎日ここに通って、煙草を吹かしている。
こんなことをして虚しくないのかって、誰かに言われた。誰だっけ、誰か、何か知っている人だったと思う。
けど誰だっていいんだ、私は。
私はすでに失っている。
大事なものをすべて、失ってしまったのだから。
黒いスーツを身にまとって、化粧を施す。
これだけで私は社会人なのだと、気分が高揚していた。
まあそりゃ、大学を卒業したら社会人になるのは必然で、私もそれに異議はない。
けれど、ここ最近の雲行きは良くなかった。
実は、母が死んだ。
そして同時に父も死んだ。
全く、何でこんな時に、しかしあいにく、私はすでに大人だった。そして、彼らは私に大きな資産を残してくれた、だから、多分生きていく上では何の問題もなかった。
けれど、悲しかった。
ずっといるはずだと思っていた父母が、死んでしまうのだとは、夢にも思っていなかったから。
「あ、何だろ?」
スマホに連絡が入っている。
多分、ハマだ。
「ハマ?何。」
「何じゃねえよ。お前、本当に大丈夫なのか。サークルのみんな、すげえ心配してる。辛かったら、言えよ。な?」
こいつは、本当におせっかいな奴だった。けれど、その分苦労も多いはずなのに、そこを省略することがない。だから人から好かれるのだし、私もこいつのことを悪く思っていない。
けれど、
「分かった。切る。」
そういう善人ぶった余裕を持っていられることが私の気に障った。お前、余裕ぶんなよ、そんなの、毎日が平和で仕方ないからだろ?とか、汚いことばかりが頭をよぎってしまい、できれば関わりを避けたかった。
はあ、ため息はもう何度付いたか分からない。
しかし事態は好転しない。
とりあえず、面接に向かうための準備を、滞りなく進めることに邁進した。
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