第24話 星をよむ人 -4- 生まれてきた理由
ボクも釣られて夜空を見上げた。
今夜は雲ひとつない快晴で、ぎりぎり細い下弦の月がそれでもしっかりと夜空を照らしている。
小学校で習った星座の見方を思い出そうとしたが、星が多過ぎて何一つわからなかった。
ホシヨミは袂から古文書のようなものを取り出し、何かを調べたようだった。
「ワシは星を読む修行を積んだがゆえ、一目見ればその者の生まれた日がわかるようになった。生まれた日がわかればその者が持つ運命もわかる。生まれ出た時の星の位置がその者に強く影響を与えるからの」
「え?じゃあ、ボクの運命も見えるんですか?」
「ああ、見えておるぞ」
それはすごい。自分の運命を是非聞いてみたい。
「え?え?じゃあ、教えてください!ボクの運命!」
「教えん」
ホシヨミが即座に答えた。きっぱりと。
「人に教えることはやめた」
やめた?
「教えても良くないことの方が多いことを知った」
よくないことが多いとは、どういう意味だろう。
「生まれ持った運命は誰にも変えられん。しかし運命はあくまで運命じゃ。どう生きるか、その者の行動によって人生は大きく変わる。
自分の力で未来を変えることを捨て、運命のせいにして弱きに逃げる者が多い。それが嘆かわしくなった」
運命で総てが決まるのではないってこと?
ボクはなんとなく納得できなかった。
「あのう、質問してもいいですか?」
「ほお、なんなりと」
「ボクが生まれてきた理由が知りたいです」
「生まれてきた理由?」
「はい、この世に生まれてきた理由です」
「ホホ、理由などない」
これも即答された。
「生まれ出でたことに理由などないわ」
ホシヨミはきっぱりとそう言った。
そんな答えが返ってくるとは思わなかった。
「どう生きるかに意味がある」
「はい?」
「生まれてきたことに理由などない。生を受けたから生まれた。人も動物も植物もじゃ。そこに理由など存在せぬわ。
その者がその命を使ってどう生きるかにこそ意味がある」
「どう生きるか、ですか?」
「どう生きれば良いかをまた聞きたいんじゃろう?そういう顔をしておる」
「は、はい」
「そのような問いに答えなどない。逆に総てが答えだとも言える。生きる意味などその者にしかわからぬわ。
問うなら自分に問いなされ。自分はどう生きたいか、要はどう生きれば自分が幸せか、じゃ」
自分が幸せかどうか……
「ワシらの暮らしぶりを見て、かわいそうだと言う者がおるが、ワシらはこの暮らしが何より幸せなのじゃ」
リリもタタもこのホシヨミも、身なりは質素で皆裸足だ。
さっき見た人家の方に目をやると、茅葺き屋根や粗末なテントが肩を寄せ合うように立ち並んでいる。所々に小さな火がチロチロと暖かそうに揺れていた。
「ワシらは普段、この銀河山から一歩も外には出ん。年に一頭仕留めた竜だけを頼りに生きておる。それがワシらタツオイの掟だからじゃ。
ワシら一族はそうして代々続いてきた。そのことに不便や不満を感じておる者などおらんし、部族の中で争い事も起きたりせん。
皆、家族の絆、一族の絆を大切にし、星々に感謝して穏やかに生きておる」
ふと、リリとタタの顔が浮かんだ。二人はいつも屈託のない笑顔に満ちていた。
「人は必ず生まれて死ぬ。星もまた生まれて死ぬ。そうして遥か太古の昔から総てのものがつながってきた。
何より毎夜毎夜、この銀河の星々に抱かれて、眠りにつけることほど幸せなことはない。なにものにも代えられぬ幸福感に包まれる。
なぜなら家族や先祖との永遠のつながりを肌で感じられるからのう。
ワシらタツオイは皆、死しても銀河の一部となり、子孫とつながり続けるのじゃ」
夜空を見上げて話すホシヨミの横顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
ボクにはそのことがとても羨ましく思えた。
「スーと言ったな、お主は今幸せか?」
不意の問いかけにボクは言葉を返せなかった。
幸せだと答えられなかった自分が恥ずかしくなり、どこかに隠れたい気持ちになった。
「人間は少しばかり物欲が過ぎるのと、すぐに他人と比べたがるのう。
それで幸せになれるならそうすればよいがの。
ワシの口からどうしろとは言わん。自分に問いなされ。
もう一度言う。生まれてきたことに理由はない。どう生きるかに意味がある。自分を信じて生きなされ」
ホシヨミはそう言うとまた夜空を見上げた。そして「フフ」と含み笑いをしたきり、黙り込んでしまった。
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